センバツでの屈辱をバネにした「吉田正尚」、“新庄チルドレン”の出世頭は控え投手ながら大奮闘…今に繋がる人気選手たちの“春”を振り返る
3月18日に開幕した第97回選抜高校野球大会。現在MLBやNPBで活躍中の人気選手の多くがセンバツに出場しているが、中には春だけの出場で終わったり、春に比べて夏はそれほど活躍できなかったりした選手もおり、ファンの印象も薄れがち。そんな彼らがセンバツを舞台にどんな戦いぶりを見せたか、振り返ってみよう。【久保田龍雄/ライター】
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センバツでの「痛恨の遊ゴロ併殺打」
まずは来年開催の第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の侍ジャパン主力候補の一人、レッドソックス・吉田正尚から紹介する。
本題に入る前に、現在の吉田の状態に少し触れておくと、オープン戦で「3番・DH」に入り、好調をキープしている。3月16日(日本時間17日)のツインズ戦では、3打数2安打1得点と、チームの勝利に貢献した姿が印象的だった。1、2年目は必ずしも契約に見合った活躍ができなかった吉田は、今季、正念場を迎えている。逆境に強いタイプだけに、メジャーでの逆襲を期待したいところだ。
話を高校時代に戻そう。敦賀気比時代、1年生の夏に4番打者として甲子園初出場も初戦敗退に終わった吉田は、翌2010年のセンバツ(第82回大会)に4番ライトで夏春連続出場。開幕試合となった1回戦の天理戦では、1対3の6回に先頭打者として左前安打を放ち、一挙5得点のビッグイニングを呼び込むなど、4打数3安打の大活躍でチームの勝利に貢献した。
2回戦の花咲徳栄戦でも、吉田は3対0の5回1死二塁、センターの頭上を抜く4点目のタイムリー二塁打を放ち、福井県勢では8年ぶりの8強入りを実現した。
だが、準々決勝の日大三戦では、1回表1死一、二塁の先制機に山崎福也(現・日本ハム)の変化球を引っかけ、痛恨の遊ゴロ併殺打。「強い打球で右へ引っ張る感じだったが、力が入り過ぎてしまった」と反省した。
皮肉にもその裏、1点を失うと、試合は一気に日大三ペースになり、大会屈指の好投手・山崎を攻略できないまま、0対10と完敗。吉田も3打数無安打に抑えられた。
これが吉田にとって最後の甲子園となったが、その後、山崎とオリックスでチームメイトになり、2022年に日本一になったのも不思議なご縁と言えるだろう。
エラーをきっかけに試合の流れが変わってしまい…
次は、今季から阪神の指揮をとる藤川球児監督が新4番候補と期待をかける森下翔太だ。
東海大相模時代に高校通算57本塁打のスラッガーは、2018年の第90回大会に3番センターで出場。大会前に「報知高校野球」3月号が掲載した「2018センバツ注目選手番付」では、森下は「西の横綱」根尾昂(大阪桐蔭→中日)を抑えて堂々の「東の横綱」に君臨していた。
1回戦の聖光学院戦、森下は2安打を記録し、いずれも後続打者のタイムリーで生還するなど、計4度の出塁のいずれも得点に絡み、チームも12対3と大勝した。
だが、2回戦の静岡戦は、8対1と快勝したチームにあって、3つの内野ゴロと三振の4打数無安打1四球と精彩を欠き、門馬敬治監督から「一人で野球をやっているんじゃないだろう」と苦言を呈された。
そして、「気持ちを切り替えていこう」と臨んだ準々決勝の日本航空石川戦、この日も森下は6回1死二塁のチャンスで三振に倒れるなど、3打席続けて凡退したが、2対1とリードの8回2死一、二塁、左前に貴重な追加点となるタイムリー。3対1で勝利後、「身体の力がいい具合に抜けた。この感触を忘れないよう、帰って素振りをします」とさらなる精進を誓った。
壮絶な点の取り合いとなった準決勝の智弁和歌山戦でも、森下は初回に左前安打、6回にも追加点となる右犠飛を放ち、10対5とリードを広げた。
ところが、7回に“甲子園の魔物”が姿を現す。2死無走者で文元洸成が打ち上げた飛球を一度はグラブに収めたレフト・上杉龍平が直後、センターの森下と交錯して落球してしまう。
「声掛けが足りていなかった」とスタンドの大歓声に声がかき消されたことを悔やんだ森下だったが、この連係ミスをきっかけに1点を返されて流れが変わり、延長10回、10対12で敗れた。
4試合で15打数4安打2打点。期待されたアーチはゼロに終わった森下は、高校からプロに行くにはまだ精神面に課題があることを痛感し、門馬監督の勧めで進学。4年後にドラフト1位で阪神に入団することになる。
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