飲食店で「おススメはなんですか?」と聞いてはいけない! 言われてみれば納得の理由とは(中川淳一郎)
飲食店に何人かで行った際などに「うわ、それは言わないで……」と思う一言があります。店員に「おススメはなんですか?」と聞くことです。店員は「海鮮5種盛りは人気ありますね。あとは海鮮サラダと黒豚ロースの岩盤焼きですか。これで始められればいいかと思います」なんて答えてくれる。これなら無難で誰もが満足できそうですが、参加者の中には「チッ、揚げ物を入れておいてほしかったぜ」みたいな不満を抱く者もいるわけです。でも、店員のおススメの前に自我は通しづらいもの。
とはいえ、店員が「カエルのエストラゴン風と血の滴るワニのソテーがおススメです」って言い出したらどうなるか? おそらくその場は静まり返り、「あっあっ、自分らでメニューを見ますんで」となるはず。
おススメを聞いてしまうと、よっぽど仰天の提案でもない限り、つい受け入れてしまうものです。それは実際の仕事でもそうです。
広告会社にいた頃、競合プレゼンにさんざん参加しました。渾身の一案を仲間と作ると、上司が「これ、トガり過ぎてるよ、山ちゃ~ん」などと言い、続いて「松竹梅の3案用意してクライアントに選んでもらえるようにしようよ」となる。
かくして石橋をたたきまくった案、中庸な案、トガり過ぎた案を提出する運びに。
で、採用されるのは大抵、中庸な「竹」案です。
結局、何人もが関与すると、どうしても中庸なものを選び、それで全体が「まぁまぁ納得できる」状況を作り出す。これが空気感を重視する日本の意思決定スタイルなんでしょう。
おススメを聞かれた店員も「最高峰の神戸牛サーロインステーキ200グラム9800円」なんてものは推薦しないはずです。なぜなら中庸ではありませんから。
飲み会という場も、往々にして余計な儀式がついて回ります。指定の時刻に店の前に着くと、今宵の宴を共にする若者たちがたむろしている。
「どうして入らないの?」
「いや、中川さんが予約した店なので先に入ったら悪いかな、と思いまして」
全然そんなの気遣うところじゃないでしょうに。
最初の飲み物を迷う人も必ずいます。メニューに並ぶサワー類やハイボール、日本酒などの上で指を泳がせて「え~と、え~と」と言いながら「あっ、グレープフルーツサワーがいいかな、いや、ぶどうサワーかな、ハイボールでも……」なんて延々と。こういう時、他はみんなビールか、酒がダメな人はジンジャーエールと決めていたりして、すでに注文を通している。
この「迷う人」のおかげで進行は滞り、しかも、この人が頼んだ飲み物に限って提供が遅れる。この人はすっかり恐縮し、「み、みなさん乾杯しましょう」とか言って“エア乾杯”をする。1分後、ようやくぶどうサワーが届いて“本乾杯”が無事執り行われる。
この儀式の間、私は本当にいたたまれない。何しろ注文で迷う姿を白い目で見られた人が、乾杯時も再び白い目で見られてしまう。
まぁ、いわゆる「決められない人」なのでしょうが、そこで店員に「おススメは?」などと聞いては絶対いけない。「テキーラショット耐久レース」なんかを提案されたら身の破滅です。