コンビニのトップに求められるのは「舌」だ 高給の経営者に庶民の味がわかるのか…セブンを築いた鈴木敏文氏の味覚
セブン&アイ・ホールディングスの新社長に、スティーブン・ヘイズ・デイカス氏(64)が就任することになった。買収に対する手腕など新社長に期待されることは多いが、元ローソン勤務で経済アナリストの渡辺広明氏は「トップに求められるのはまず“舌”だ」という。
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今回就任するデイカス氏は、ホールディングスの社長であって、コンビニ事業である「セブン-イレブン・ジャパン」の社長は、引き続き永松文彦氏が務める。正確にはデイカス氏が“コンビニのトップ”というわけではないのだが、新社長就任のニュースに対する反応をみると「上げ底弁当の社長が交代か」など、コンビニ事業と絡めた意見がやはり多い。新社長下ではコンビニ事業に集中する体制となることからも、デイカス氏が関与する機会も当然ながら増えるはず。そこで今回は、コンビニにおけるトップの“舌”の重要性について書いてみたいと思う。
コンビニ弁当などの「中食」の商品開発者が、社長プレゼンに四苦八苦する――そんなテレビ番組を見た事がある人は多いのではないだろうか?
実際コンビニ業界では、新たに立ち上げるブランドや、顧客に売り込みたい商品、売れ筋商品などの「戦略的商品」に関しては、社長による試食プレゼンが行われ、最終判断が下される場合が多い。
私はローソン時代、日用品を中心とする780品目の商品開発に携わってきた。そもそも、顧客ターゲットを設定し、そこに合わせた商品を作るのが開発の仕事の基本である。だからターゲット層ではない社長にプレゼンすること自体がナンセンスなのだが、それはさておき、開発者がさんざん試作して完成させた商品が、社長の一言によって大きな変更を余儀なくされるケースもある。
ひどいものでは、カレーライス商品に添えられた赤い福神漬けを「茶色いほうが美味しい」とトップが言い出し、茶色い福神漬けのカレーが発売された……なんて話を見聞きして驚いた事がある。もはや個人の好みのレベルだ。
コンビニ業界の経営層ともなれば、高給取りで、一般庶民とは異なる食生活を送っているだろう。仕事柄、豪華なレストランで会食を繰り返すことも多い。「商社からの天下り社長やプロ経営者のトップに、庶民が美味しいと感じる味が分かるのか」というボヤキは、コンビニチェーンのバイヤーや製造にかかわる取引先からよく聞こえてくる。とくにコンビニの店長からキャリアアップで就任したのではない、現場を知らず経営層に入った人物ともなれば、彼らの不満が高まるのも当然だろう。その点、デイカス氏は父親がセブンのコンビニオーナーだったというから、期待できるかもしれない。
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