XのAI「Grok」に“大人の会話”ができる成人モードが登場 アダルト産業でもAIの進化が止まらない(古市憲寿)

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 2045年にAIは人類の知能を超える。そんな議論が流行して久しい。本当に人類の知能を超えるかは分からないが、着実にAIは便利になっている。

 ChatGPTにディープ・リサーチという機能が搭載された。コンサルや研究者に資料作成を頼むような感覚で、「詳細なリサーチ」というボタンを押した上で、調べたいことを聞く。内容は「中国の通史をテクノロジーの観点からまとめて」でも「JALマイルの効率的なため方」でも何でもいい。「3世紀の技術水準で国民国家は創出可能か」のような思考実験も得意。ニュースや論文、口コミなどを参考に、10分ほどで詳細なレポートが上がってくる。内容によっては数万字に及ぶこともあり、そのへんの調査会社よりもずっとレベルが高い。

 台中に行っていたのだが、街中に歩道が少ないことが気になった。GPTに聞いたら、歩道の整備状況、事故の発生件数、台中市の取り組みや市民の不満、他都市との比較を含めた1万字のレポートを約8分で作ってくれた。

 ディープ・リサーチは、無料ユーザーでも使えるが、使用回数に制限がある。最も賢いのは「o1 pro」モードなのだが、月額約3万円。十分高いが、将来的に数十万円のプランも登場するのだろう。経済格差が知力の格差につながる時代が来るかもしれない。

 さて、非常に有能なChat GPTだが、真面目過ぎるのが玉にきず。少しでも暴力的・性的だと見なされる話題を振ると、けんもほろろに「申し訳ありませんが、そのリクエストには対応できません」と返される。簡単に使えるAIの中で、最も規範が緩いのがX(旧Twitter)に搭載されたGrok。Xユーザーなら画面上に「Grok」のボタンが見つかるはずだ。

 官能小説などお手のもの。ラフな指示でもいいが、詳細に設定や指示を書き込めばその通りに物語を作ってくれる。新人文学賞の応募作品の中には、かなりの割合で高齢男性(恐らく書き手自身が主人公)が、若い女性に求愛される作品があると聞く。もはやそんな小説はGrokに量産してもらえばいい。Grokは画像生成もしてくれるが、やはり規範は緩め。有名人の名前を入れれば似た顔を出力されてしまう。

 さらに最近、Grokは「成人モード」を試験導入した。まだ英語版だけだが、音声チャットをする時に、「Sexy」や「Unhinged(錯乱)」モードを選べる。AIと大人の会話ができるわけである。アメリカでは数年前からAIキャラクターと会話できるサービスが流行しているが、アダルト産業とAIの連携はさらに深まっていくだろう。

 現時点におけるAIの限界は、パソコンやスマホの「向こう側」の仕事はうまくこなすが、「こっち側」はまだまだなこと。ロボット技術の進化の方が遅いので、しばらくは体を使う仕事は人間の役割として残りそう。消費者としてはいいが労働者としては大変な時代が続きそうである。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2025年3月20日号掲載

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