意外と少ない“やることやってる”若者群像劇 恋愛も性欲もまんべんなく描く「トーキョーカモフラージュアワー」につい見入る

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 東京に住んで30年たつ。華やかさに憧れるというよりは利便性重視。電車とバスが縦横無尽かつ数分おきに走る都会は超便利。人が多過ぎるがゆえの不干渉・無関心の心地よさもある。

 そんな東京に暮らし始めて、ある種の自由や開放感、一抹の寂しさや怖さを体感する男性が主人公の物語がある。「トーキョーカモフラージュアワー」だ。さりげなく、でも、まんべんなく、男女交際の本音と実態が挿入されていく。恋愛というか、性欲解消の肉体関係も含めた、若者の群像劇。やることやってる恋愛ドラマって、意外と少ないので、つい見入ってしまうのだよ。

 主人公・宇都宮(松倉海斗)は生まれも育ちも山形県の素朴な男性だ。商社に勤めているが、突然の辞令で山形から東京へ転勤。心のどこかで何かが変わると期待して上京。会社には、自分のハイスペックを餌にナンパしまくるが、ヤリ目がバレバレで成功しない野田先輩(さや香・新山)や、先輩の誘いを秒で断る頼もしい後輩・馬場くん(大倉空人)がいる。彼らに背中を押され、東京になじもうと焦る宇都宮。田舎者コンプレックスはないし、基本的には純朴な好青年だが、主語が弱過ぎて心配である。

 野田先輩に連れて行かれたバーで出会ったのは、WEBデザイン会社勤務の女性たち。いろいろとゆるふわな目黒ちゃん(樋口日奈)と、冷静で手厳しい曽根ちゃん(片山友希)だ。目黒ちゃん、実はバーの店主・亮くん(松本怜生)にほれているが、亮くんは妻子持ち・セフレあり・彼女複数。息を吐くようにうそをつく亮くんを手練れのクズと見るか、フルコンプの男と見るかはあなた次第(私は後者で見る)。

 で、曽根ちゃんはその日たまたま性欲が高ぶる時期だったため、うっかり宇都宮と致す。おぼこい宇都宮は舞い上がって距離を縮めようとするが、さらりとかわされる。恋愛における思い込みが強めの宇都宮は、自由で奔放な曽根ちゃんから大人の洗礼を浴びることに。

 曽根ちゃん役の片山友希は、ドラマ版「セトウツミ」のハツ美役を演じた頃からずっと好きだったし、今回はアタリ役。主義・主張・主語が明確で目線はシニカル。束縛は嫌いだが、社内不倫の発覚など男女のもめ事・下衆な話は大好物。片山が「何物にも染まらない」女をキュートに演じている。

 曽根ちゃんの会社には、ハイスぺ狙いでゴリゴリ動くたくましい後輩・松田ちゃん(優希美青)や、男に言い寄られることでしか自分の価値を感じられないみつきパイセン(星野奈緒)がいる。20~30代美人畑の恋愛模様はお盛んに見えるが、空虚さも映し出すところがいい。性の空虚は若いうちに経験しておけば、自分の欲望に迷いがなくなる。カスやハズレを引かなくなるはずだ。

 迷える子羊・宇都宮だが、かいがいしく外堀を埋めてくるフリーターの弥恵(秋田汐梨)と付き合い始めて、逡巡が生まれる。何事にもしょっぱい曽根ちゃんが逆に頭から離れないのである。

 この手の恋愛的かすり傷を40~50代の男女でもやってほしいが、大概が重傷か致命傷になっちゃうからな。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年3月20日号掲載

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