「日本アカデミー賞」で歴史的な番狂わせ! 「侍タイムスリッパ―」が“1館上映スタート”から奇跡の最優秀作品賞に…聖地凱旋までの全舞台裏

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製作費2600万円!

 3月14日、第48回日本アカデミー賞が発表され、「侍タイムスリッパ―」(安田淳一監督)が、最優秀作品賞を受賞した(安田監督は、最優秀編集賞も受賞)。

 すでに報じられているように、この作品は、製作費2600万円の独立系インディーズ作品、しかも、安田監督の自主制作である(日本映画の平均製作費は3億5000万円といわれる)。当初は配給会社がつかず、昨年8月17日、老舗ミニ・シアター「池袋シネマ・ロサ」1館で、ひっそりと公開された。

 安田監督は、結婚式などのビデオ撮影業とコメ農家を兼業する京都人である。預貯金すべてを注ぎこみ、愛車を売却、さらに文化庁の助成金600万円をあてて製作費を用立てた。撮影に関しては、東映京都撮影所が全面協力した。映画完成時点で、安田監督の預貯金は7000円しかなかったという。

 ところが、その面白さがSNSなどで拡散されるや、あっという間に、連日大盛況に。現に筆者は、公開10日目ほどの時点で、同館で観たが、すでに、ほぼ満席であった。

 やがて「川崎チネチッタ」も上映を開始。9月に入るや、大手のギャガが配給に加わり、全国のシネコンで公開されるようになった。評判は高まる一方で、最大時、全国約350館での公開にまで拡大された。

 その後、日刊スポーツ映画大賞、ブルーリボン賞などで作品賞を受賞。そして、日本アカデミー賞では、7部門にノミネート(優秀賞受賞)、そのうち2部門で最優秀賞を受賞したというわけだ。まさに“ジャパニーズ・ドリーム”ともいえる、典型的なサクセス・ストーリーである。

 ところが、

「いまとなっては結果オーライですが、いくら話題作とはいえ、もし、池袋シネマ・ロサ1館上映のままだったら、日本アカデミー賞には、ノミネートすらされなかったでしょう」

 と語るのは、ベテランの映画ジャーナリスト氏である。

驚異的なロングラン上映

 どういうことかというと、

「第48回日本アカデミー賞の選考対象基準は、〈2024年1月1日~12月31日までに、東京地区の同一劇場で、有料で、1日3回以上、かつ2週間以上、連続して上映された、40分以上の劇場用劇映画、およびアニメーション作品。ただし、イベント上映、モーニング・レイトショー上映などは対象外〉ということになっています。要するに、事実上、シネコン・レベルの劇場で、大手が製作配給した作品が対象だというわけです。しかし、池袋シネマ・ロサでは、当初から1日1~2回のみの上映でしたから、とうてい、選考対象外だったのです」(映画ジャーナリスト氏)

 これについて、同館の矢川亮支配人は、かつてのデイリー新潮の取材で、こう答えてくれていた。

「よく、『なぜもっと上映回数を増やさないのか』といわれるのですが、映画の上映とは、かなり早い時期に配給会社さんから提案をいただくものなのです。そのため、上映期間や上映回数をきちんと決めたうえで、宣伝を始めます。当館も『侍タイムスリッパー』だけを上映しているわけではありませんし、スクリーンも2つしかありません。上映期間や回数を、あとになって自在に動かすことは、むずかしいんです」(2024年9月20日配信記事より)

 しかし、「侍(さむ)タイ」の場合、途中からギャガが配給に加わったため、全国に拡大公開され、日本アカデミー賞の選考対象となったわけだ。

「『侍タイ』のすごいところは、最初の池袋シネマ・ロサでの封切りから、すでに7カ月たっているのに、まだ複数館で上映がつづいている点です。今回、最優秀作品賞は5作品が優秀賞としてノミネートされましたが、受賞発表の日に、東京地区の劇場で上映されていたのは、『侍タイ』以外では、横浜流星主演の『正体』だけです。『キングダム 大将軍の帰還』『夜明けのすべて』『ラストマイル』は、もう東京地区の劇場上映は終了しています。しかしその『正体』も、昨年11月29日の公開でしたから、まだ4か月弱。『侍タイ』のロングランには、およびません」(映画ジャーナリスト氏)

 今回は、その「正体」が大本命だと思われていた。たしかに、「正体」は、監督賞(藤井道人)、主演男優賞(横浜流星)、助演女優賞(吉岡里帆)などを受賞したが、“最高栄誉”の最優秀作品賞は、「侍タイ」に持っていかれたというわけだ。

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