維新が胸を張る「高校の授業料無償化」に税金の無駄遣いの声…お膝元「大阪」で名門府立高が定員割れの衝撃 専門家は「教育が“弱肉強食”を加速させかねない」

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私立高と経済合理性

 極端に倍率が落ちた府立高は、偏差値が低い傾向があることは先に触れた。私立高に生徒を“取られやすい”学校だと言えるが、こうした府立高は不登校や様々な障害、保護者に問題のある生徒を積極的に受け入れ、必要ならば小学校の学習内容からやり直すなど、様々な“学び直し”の機会を提供している。

「維新の政策を精査すると、『リバタリアニズム(自由至上主義)』の影響を強く受けていることは明白です。リバタリアニズムは個人の自己責任を重視し、福祉国家や公共サービスの拡充に否定的です。『頑張った者だけが報われる社会』と言えば聞こえはいいですが、これは『弱肉強食』とも言い換えられます。維新の教育観と、ある種の私立高は相性が良いでしょう。東大の合格者数やスポーツの成果をPRするような学校には追い風となります。一方、公立高でハンディキャップの多い生徒に学び直しを提供する“エンカレッジスクール”のような学校は、もともと経済合理性とは相いれません。税金を使って公的機関が運営するのが最も合理的なのです」(同・親野氏)

 少子化で、どんな高校でも生徒の確保には苦労している。そして公立高より私立高のほうが、まさに経済合理性を追求することで生徒を集めやすいという。

「もともと私立高には『校舎が新しくて綺麗』、『先生の面倒見が良さそう』というイメージがあります。中学生に私立高が人気の理由ですが、さらなる生徒の確保を目的として入試の科目数を2つに減らしたり、AO入試を実施したりする“入試改革”が加速したらどうでしょうか。確かに経済合理性には合致しているのかもしれませんし、実際、すでに大学入試では始まっている現象です。一方、高校入試の難易度が必要以上に下がるのは、教育の質という観点から問題でしょう。何よりリバタリアニズムの“負の側面”である『弱肉強食社会の実現』に教育界が積極的に加担することになります」(同・親野氏)

拙速な国会審議

 大阪の府立高校では北野、天王寺、高津、大手前といった学校が名門として知られる。東京の都立高校なら日比谷、西、国立が有名だ。

 こうした偏差値トップを誇る進学高に無償化の影響が及ぶかどうかも関心が高いだろう。親野氏は「影響が及ぶのは多分、最後になるのではないでしょうか」としながらも、「授業料の実質無償化が続けば、たとえ偏差値のトップ高であっても志願者の減少など、何らかの地盤沈下が起きても不思議ではない」と指摘する。

 国政に目を転じれば、自民と公明、そして維新は「高校授業料の実質無償化」で合意に達し、衆議院で2025年度の当初予算案を可決した。

「予算案を可決するという政治的な駆け引きの結果、高校授業料の無償化は実現されます。これでは拙速と言わざるを得ません。一度でも国会に教育経済学の専門家が出席し、無償化のメリットとデメリットについて見解を述べたでしょうか。そもそも教育学の研究で、教育費は対象となる子供が幼ければ幼いほど効果を発揮することが分かっています。高校より、小学校や幼稚園、保育園に公的支援を集中させるほうが税金の使い道としては効率的なのです。例えば今、全国の小学校では教師の不足に苦しんでいます。高校授業料の実質無償化より、先にすべきことはたくさんあるのではないでしょうか」(同・親野氏)

デイリー新潮編集部

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