「高校野球には戦争、昭和の名残が」「資本家と労働者の階級格差はAI格差に」 五木寛之と古市憲寿が語る「昭和100年」

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物語に文字は必要ない?

古市 「若者の活字離れ」なんて言われるように、今は活字の時代が一つの変わり目に来ている気がしています。今回『昭和100年』という本を出して、こうして五木さんと対談しているわけですが、今、物理的な形で本を出す意味ってあるのかなと考えちゃいました。

五木 たしかに。本に対する熱狂的な支持もあれば、「活字の時代は終わった」という、やけくそな意見もあります。

古市 活字はまだ残っていきますかね。

五木 さあどうだろうか。でも活字の文明は実はそんなに歴史が長いわけではなくて、グーテンベルクが活版印刷を発明するまでは、ずっと“口承”だったんですね。物語は「サガ」として、語りで継承されてきた。

古市 たしかに、ホモ・サピエンスが生まれたのが20万年前だとすると、活版印刷どころか、文字の発明までさかのぼっても、たかだか5000年前ですもんね。それも、帳簿や戸籍が必要になって、さすがに覚えられないから使われるようになっただけで、本来物語に文字は必要なかった。そう考えると、今はこれだけ動画メディアがたくさん出てきている中、文字で物語をつくる意味がどれだけあるのか……。

五木 たしかに。

古市 残るは残るんでしょうけど、ちゃんと実用的なものとして残るのか、それとも古典芸能のようなものとして残るのか。調べものをするにしても、ChatGPTに質問して会話していった方がより早く理解が深まったりしますし。

五木 最近のAIはすごいです。人生相談もできるし、AIがつくった俳句や歌詞とやらを見てみたけど、これまたよくできてる。

古市 もうAIに相談すればたいてい解決してしまう。

五木 国会図書館に行っていろんな本をあさるのは大変だし、調べられる量も十分でなかったりします。そういう知識とかインテリジェンスとかを一手に抱え込んだAIがカバーしてくれるなら、たしかに便利だよね。巨大なAIがスマホの中に入っちゃうことだってあり得ないことじゃない。

古市 そうなっていますね。

能力をお金で買える

五木 だからこそ出てくるのは、格差の問題でしょう。AIを使いこなせる人たちと、そうでない人たちの落差。

古市 まさにおっしゃる通りで、おそらくそこに経済格差も関係してきそうなんです。たとえば、ChatGPTにも、月額が無料、3000円、3万円というコースがあるんですけど、金額ごとに能力が全然違うんですよ。

五木 能力をお金で買えてしまうわけだ。

古市 そうなんです。しかも今度は30万円のコースも出るなんて話もあります。AIに対して毎月30万円払える人と、無料コースしか使えない人では、「頭のレベル」まで変わってきてしまう。お金を使える人ほどどんどん賢い使い方ができるようになって、格差は一層広がっていくのだろうなと。

五木 財閥と貧民が混在していた昭和の時代と比べて、今はずいぶん社会保障が行き渡るようになったけど、そういう平穏に見える中でも、間違いなく格差はある。

古市 工場を持てた資本家と、働くことしかできなかった労働者がきっぱり分かれていた時代と違って、今はスマホ1台で何でもできてしまう。動画配信で工場経営以上のお金を稼いでいる人もたくさんいる。その意味ではかつてのような格差はなくなったはずなんですけど、新しい形の格差が生まれている。

五木 誰もがスマホを持つ時代だからこその格差だね。

古市 とはいえ、資本主義が普及したこの200年で生活水準は大きく向上して、平均寿命は延び、貧困も減った。僕は今の時代をそんなに悪くは思わないんですよね。

五木 僕も今の時代に対して憤慨する気は全くないです。少なくとも、召集令状がいつ届くか、戦々恐々としている必要がないだけでもありがたいもの。

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