「高校野球には戦争、昭和の名残が」「資本家と労働者の階級格差はAI格差に」 五木寛之と古市憲寿が語る「昭和100年」
言葉選びの苦労
五木 でも、今の若い人たちはみんな携帯電話を持っているし。しかもマッチングアプリがすごく普及してるんだとか(笑)。
古市 そうですね。結婚するきっかけの約3割がマッチングアプリといわれています。
五木 もうそれが普通のことなんだね。成田さんも、アメリカではマッチングアプリで結婚するのがすごく多いって言ってました。
古市 お互いプロフィールが分かってから会う方が安心なんでしょうね。AIにお墨付きももらえるし。
五木 今や一つのカルチャーだね。
古市 五木さんの世代は、お見合いが多かったですか。
五木 僕ら物書きの世界だと、お見合いなんて考えられなかったな。でも恋愛というより、野合という感じだよね(笑)。いや、「野合」って今はあまり伝わらない言葉か。
古市 意味合いは分かりますけど、自分では使わない言葉ですね。
五木 原稿を書くとき、こういう言葉にはすごく苦労するんですよ。「この言葉、今の若い人たちに理解してもらえるかな」って。僕が「若い人」というのは、40~50歳くらいになるんだけど(笑)。
古市 たしかに、僕も『ヒノマル』という戦時中の小説を書いたとき、言葉の使い方が一番難しかったです。たとえば「情報」という言葉一つとっても、昭和20年にはあまり使われていなかっただろうなと、何気ない日常会話に悩みましたね。
新語を文章に取り入れるか問題
五木 お互い言葉に関わる仕事をする人間として、苦労が多いよね。今度の古市さんの『昭和100年』にしても、僕らの世代にとっては刺戟的な表現がいっぱい出てくる。
古市 「昭和100年」の今年は、実は三島由紀夫の生誕100年でもあるそうです。当時まだ新語だった「カッコイイ」という言葉は、三島は10年もたてば消えてしまうとみていたようです。結局「カッコイイ」は今も使われているわけですけど、新語を自分の文章に取り入れるかどうかって、けっこう迷いませんか? 取り入れると今っぽい文章にはなるけど、少したつと古びてしまい……。
五木 流行語を大真面目に取り入れて書くことには抵抗がありますけども、落語的な感じで、ユーモアを意識して使うことはあるかな。たとえばマッチングアプリという言葉も、ちょっと斜に構えて使っているのかもしれない。
古市 たしかに。僕も20代のときは抵抗なく使えていた言葉でも、40歳になると若い人にこびているように見えるんじゃないかなと思ってしまって、ちゅうちょすることがあります。
五木 その心配はなきにしもあらずだね。
古市 どういう文体で書くのがいいのか、最近の悩みです。
五木 ちょうど年齢的に中途半端だからでしょう。これが僕らみたいに80、90歳となってくると、マッチングアプリという言葉も、冗談半分で使えるようになる。
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