「高校野球には戦争、昭和の名残が」「資本家と労働者の階級格差はAI格差に」 五木寛之と古市憲寿が語る「昭和100年」
「昭和100年」にあたる2025年。平成さえも過去となりつつあるのに、「大阪万博」やら「政治とカネ」やら、かの時代の残影が今なお社会のど真ん中に居座る。いつになったら新しい時代は訪れるのか……。このたび“昭和本”を上梓した両人による、50歳差対談。
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【写真を見る】年の差は50歳! お互いの「昭和100年」を語りつくした五木寛之と古市憲寿
古市 久しぶりにお会いできてうれしいです。初めて対談でお会いしたのがちょうど10年前でした。
五木 もう10年たちましたか。そのとき古市さんはおいくつでした?
古市 当時僕が30歳で、五木さんが82歳。50歳差対談だったんですよ。
五木 そう。僕の長い対談歴の中でも最大の年齢差でした。だけど去年、女優の芦田愛菜さんと対談をする機会がありましてね。年齢差70歳で、古市さんとのレコードは破られちゃった。
古市 それはすごい。これからどんどん記録が更新されていきそうですね。
五木 この前は成田悠輔さんと対談したんだ。経歴だけ見ると、もう大変な人だなと思ったんだけど、話してみるとなかなかの好青年でした。人には会ってみるもんだね。
古市 時代的に本を読む人は減っていますけど、YouTubeなどで対談の動画はよく見られています。人と人がしゃべっている様子は、見ていて面白いのでしょうね。
五木 対談ってのは文芸の世界だと“添え物”扱いをされることが多いけど、古代から対談こそが思想の根幹にあるんだと思う。対談という世界をもっと盛り上げたいなと、一生懸命いろんな人と喋ってるんですよ。
「あそこに行けばみんながいる」場所がなくなった
古市 五木さんは本当に幅広い分野の人と親交をお持ちですよね。1月に出された『忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉』でも、寺山修司から小林秀雄まで、もはや伝説上ともいえる人物がたくさん登場していました。そういう方々を見送ってきたというのは、やっぱり寂しいものなんですか。
五木 うーん、そうですね。だけどそれを孤独だと感じることはなかったかな。僕がそういうタイプの人間だというのもあるんだろうけど。
古市 今もたくさんの方々と対談していますしね。
五木 そうは言いつつも、昔と比べたら、今の方が孤独を感じやすい時代かもしれません。昔は文壇サロンとかいって、モノを書く人間たちが絶えず集まってた。今はなかなか「あそこに行けばみんながいる」って場所はないですよね。
古市 当時って、今ほど自由に連絡が取れる時代ではなかったと思うんですけど、「行けばそこにいる」という感じだったんでしょうか。約束とかはあまりしなかったんですか。
五木 そう。電話も使っていたとは思うけど、「ここにかければ連絡がつく」という場所が必ずありましたね。いずれにしても人と人との関係が濃密で、今の方が物書きは孤立しているように感じますね。でも古市さんは、メディア関係のいろんな人たちと関わりがあるでしょう? それでも孤独を感じることってあります?
古市 ありますね。僕はちょうど40歳になったところなので、周りがどんどん結婚してコミュニティーが分かれていくんですよ。あとは五木さんが麻雀をやっていたように、朝までみんなとボードゲームをするときは、終わって解散するときに一瞬の孤独のようなものは感じます。
五木 オルテガ・イ・ガセットというスペインの思想家の言葉に「Together & Alone」(和して同ぜず)なんて言葉があるらしいけど、一人でいるから孤独なんじゃなくて、群衆の中にいながら孤立していることこそが孤独ということなんだろうね。
古市 そうかもしれません。
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