依存症の母親から“オピオイドベイビー”が生まれ…日本人は知らない「悪魔の処方薬」が全米にもらした悲劇と絶望
和解金「9000億円」
前代未聞の法廷闘争は原告である州に軍配が上がり、ジョンソン・エンド・ジョンソンには制裁金として6億ドル、日本円で約900億円が科される事態となった。大手製薬会社を相手取った訴訟は全米各地で巻き起こり、自治体だけでも48州と500市が訴えを起している。
では、数千件の集団訴訟の被告となった本命のパデュー社はどうなったのだろう。2023年、同社は「オピオイド危機を招き悪化させた責任を認める」と発表し「創業家のサックラー家が会社の所有権を手放し、会社が和解金60億ドル(約9000億円)を支払う」という和解案に同意した。ここで世論は、これでオピオイド問題は一旦決着するだろうとみた(私もそう思った)。
が、2024年6月、米連邦最高裁判所がその和解の無効を決定した。つまり、待ったをかけたのだ。その理由は「和解案は、オピオイドの蔓延を促した創業家のサックラー一族(その資産)を不当に保護するものだ」という。少し難しい話になるが、砕けた解説をすればこうなるだろう。
――創業家のサックラー一族さんよ、そもそもあなた方が仕掛けた麻薬ビジネスじゃないか。多くの被害者が生まれ何十万人も亡くなっている。パデュー社のみならず、あなた方も大量訴訟の被告となっているでしょう。会社が60億ドルもの高額な和解金を支払い、あなた方が会社から手を引いたからと言って済む問題ではない。あなた方が手に入れた資産は膨大じゃないか。もっと責任を果たすべきだ(これは筆者の勝手な解釈になるが……)。
“密造フェンタニル”の登場
同時にパデュー社の破産と債権計画も白紙に戻されたので、この前代未聞の法廷劇はまだまだ続くことになる。一方で「原告側が同意しているのなら和解を認めろ。被害者への救済金の支給が優先されるべきだ」との世論もあり、実に難解な問題となっている。
しかし、こうまでしても事態は一向に改善の兆しを見せなかった。各州も州法を定め、オピオイド処方量を削減しようと取り組みを強化しているが、むしろ蔓延は悪化の一途を辿った。最大の原因はメキシコにあった。
メキシコカルテルがオキシコンチンやヘロインの鎮静効果を遙かに凌ぐ、また、より利益率のいい“フェンタニル”という最強のオピオイドをひっさげて、アメリカに乗り込んできたのだ。ここで史上最悪となるフェンタニル危機が幕を開けることなる。
第1回【「1年で10万人」が犠牲に…全米に蔓延する「オピオイド禍」最大の元凶は350億ドルを荒稼ぎした「製薬会社」だった】では、アメリカを悩ますオピオイド禍がどのように始まったかを報じている。
[3/3ページ]