「1年で10万人」が犠牲に…全米に蔓延する「オピオイド禍」最大の元凶は350億ドルを荒稼ぎした「製薬会社」だった

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悪魔の処方薬「ペイン・キラー」

 2月3日にデイリー新潮で公開された拙稿【ヘロインは「死ぬかも…」だがフェンタニルは「死ぬ!」 “ゾンビタウン”が急増するアメリカで元マトリ部長が目撃した“悪夢のような光景”】では、アメリカの麻薬史上類を見ない惨劇を引き起こしている合成オピオイド“フェンタニル”について書いた。では、なぜフェンタニル等のオピオイドがアメリカで蔓延したのだろうか。アメリカは麻薬乱用大国だ。コカイン等多種類のドラッグが出回っているのに、どうしてオピオイドなのか? 今回は、この点ついて解説したい。【瀬戸晴海/元厚生労働省麻薬取締部部長】

(全2回の第1回)

 Netflixが配信中の「ペイン・キラー(PAINKILLER)」というヒューマンドラマをご存じだろうか。バリー・マイヤー(作家で報道記者)が2003年に著したノンフィクション『ペイン・キラー(―アメリカ全土を中毒の渦に突き落とす、悪魔の処方薬)』を原作に制作された、1シリーズ6エピソードからなるドラマだ。

 このドラマを観るとアメリカでオピオイドが蔓延した経緯が一目瞭然となる。ドラマ制作陣は私たち(国際麻薬情報フォーラム)よりも、正確にそしてリアルに現場を捉え、アメリカの医療制度を含む様々な問題を露呈させている。

 1990年代、コネチカット州スタンドフォードに本社を置く「パデュー・ファーマ(以下、パデュー社)」という製薬会社が台頭してくる。“サックラー一族”率いる同社は、すでにヨーロッパで麻薬性鎮痛剤として使われていた、モルヒネとほぼ同等の強度を有する半合成オピオイド「オキシコドン(oxycodone)」の徐放剤(※成分がゆっくり放出するように工夫が施された薬剤)を開発。1995年末に「オキシコンチン(OxyContin)」との商品名で、しかも「非がん性の痛みに対しても適応可能」として薬事申請し、FDA(※食品医薬品局=Food and Drug Administration)から承認を得た。

 麻薬性鎮痛剤は通常、その危険性を考慮してがんなどの激しい痛みや、麻酔時の鎮静目的に限り承認されており、一般的な“痛みの緩和”を目的とする使用は適用除外となっている。

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