おばあさんがイチョウの樹をじっと見つめて… 千代田区で起きている不思議な住民運動

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 ご存じ、政治やビジネスの中心地である東京・千代田区の一角で、不思議な住民運動が起きている。

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交代で「木守り」

 共立女子大の辺りからJR神田駅までを通る「神田警察通り」は、ビルが林立するビジネス街だが、夜になると街路樹のそばに座り込む人たちが現れるのだ。自分たちを「木守(きまも)り」と呼んで、20人ほどが交代でイチョウの樹を守っている。

 木守りをしている人たちは「神田警察通りの街路樹を守る会」というグループのメンバーで、大半が地元住民だ。そのアドバイザーで、靴店を営む北城照二郎氏が言う。

「もともとは2016年に千代田区が道路拡幅を名目に街路樹を伐採し始めたのが“木守り”を始めた理由です。神田警察通りのイチョウは樹齢50年以上の立派な樹木ばかりで、景観に寄与するだけでなく、燃えにくいため、火事になっても延焼を防いでくれる。それを区役所は伐採し、わざわざ桜に植え替えるという。区の予算を使って行う必要があるとは思えません」

“伐採賛成派”から暴力

 住民らが反対の声を上げると、第1期工事(西側)は、「既存の街路樹を活用する」として、イチョウを残して整備される。

 ところが第2期工事(東側)では、計画からその文言を削除し、32本あるイチョウ並木の整備・伐採に乗り出したのだ(このうち2本は移植)。住民は“だまし討ち”と反発し、2022年4月に工事が始まると、木に抱きついて阻止する人まで現れた。

 北城氏が続ける。

「すると、区は立木の伐採場所への立ち入り禁止の仮処分を申し立て、これが通ると、昨年4月からまた伐採を開始。途中、千代田区長選(今年2月)があったことで小康状態になりましたが、区長が再選すると、2月5日になってまた伐採を始めた。私も現場に駆け付けたところ、“伐採賛成派”の男性(町内会幹部)から暴力を振るわれてしまいました」

千代田区役所の見解は

 景観を守りたいという運動が、まさかの暴力沙汰にまで発展してしまったわけだが、当の千代田区役所はどう答えるか。

「伐採に反対している方々は、区役所の目的が街路樹を切ることだと思っているようですが、実際には神田警察通りに自転車の走行空間を作り、歩道を広げることが一番の目的なのです。そのためには、今あるイチョウをいったん伐採しなければ工事ができません」(道路公園課の担当者)

 神田警察通りに残るのは9本。今夜も「木守り」の住民たちはイチョウに張り付いている。

週刊新潮 2025年3月13日号掲載

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