先が一向に読めない「出色のミステリー」 謎が謎を呼ぶ「御上先生」の結末を占う
自死を描いた気概
マスコミが殺到する前、御上は大判の封筒をポストに投函した。「(冴島の問題は)放置したから深くなった」(御上)。問題を解決に近づけるための強行策だった。
1年前に神崎が取材・執筆した記事が出たあと、古代は冴島と筒井に異動先として系列予備校の教師の座を用意した。だが、冴島は辞退する。そうせざるを得ない事情があった。
神崎は冴島に真相を尋ねたが、答えてくれない。冴島の言葉は要領を得なかった。「私には教える資格なんて、ないと思ったの」(第3回)、「隣徳という名前ともう縁を切るべきだと思った」(同)、「(真相を)話したら私は元教師でさえなくなる」(第6回)。冴島は神崎のことを全く恨んでいないという。
隣徳と文科省、政界を覆う最大の闇である裏口入試問題がクローズアップされ始めたのは第3回から。倭建命(やまとたけるのみこと)を名乗る人物から、職員室にファックスが届いた。
「隣徳はくに のまほろば このくにに平川門より入りし者たち数多あり お前の不正をわたしは観ている」
続く第4回、御上とコンビを組む副担任の是枝文香(吉岡里帆)が、平川門が江戸城の裏口であることに気付く。
さらに是枝は倭建命とは官僚ではないかと読む。倭建命が蝦夷の襲来に備えてつくった関所が、今は文科省のある霞ヶ関にあったからだ。もっとも、御上は自分が倭建命であることは否定。では、倭建命は槙野なのか。
同じ第4回の終盤、倭建命から2通目のファックスが届く。1通目とほぼ同じ内容である。第7回では3通目のファックスが入る。今度は溝端、塚田、中岡が仲良く料亭から出てくる写真付きだ。裏口入学の実行グループである。
「こちらは話す準備がある」
第8回、神崎が元隣徳生徒の戸倉樹(高橋恭平)を伴い、冴島宅を訪ねる。神崎は「先生は戸倉さんをかばっていたんですよね」と冴島に問い掛ける。戸崎は第1回にもほんの数十秒、登場していた。冴島と真山の関係を報じる週刊誌を眺めていた。
同じ第8回の終盤ではクラスのムードメーカー・富永蒼(蒔田彩珠)が危機に瀕したらしく、御上に助けを求める。
富永は家庭環境に問題を抱えているのかも知れない。第1回の冒頭、御上の「帰るべき場所を君も探している」というナレーションが流れる中で、富永は1人で退屈そうに街を歩いていた。
第3回で富永が家へ訪れた次元賢太(窪塚愛流)の母・珠代(山田真歩)によると、富永の母は普通の人。裕福な人間が集まる隣徳の保護者の中では珍しい。
学園ドラマとしても一級品。これまでの学園ドラマになかったエピソードを次々と盛り込んだ。「真のエリート論」(第1回)、「『ハゲワシと少女』の議論(目の前で命の危機に瀕している人を救うのとそれを報じるのとどちらが正義か)」(第2回)、「教科書検定と学習指導要領」(第4回)、「生理の貧困」(第6回)
御上の兄・宏太の自死を描いたことには気概を感じさせた。誘発しないためという理由で、近年のドラマは滅多に青少年の自死を描かない。
しかし、青少年の自死に歯止めがかからないのが事実。このドラマは現実から目を背けず、御上兄弟の母・苑子(梅沢昌代)の奈落の苦しみを現実的に描写し、自死にブレーキを掛けようとしているのだろう。
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