中国EV車躍進の再来? 「ディープシーク」登場で沸騰する中国AIバブルの「バカ騒ぎ」をバカにできない理由

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中国の勝ちパターン

 このように見ていくと、中国のディープシーク・バブルとは、「米国を打ち破ったすごいAI」という話題に煽られて、企業が飛びつき、それで荒稼ぎ……というどうしようもない展開に思える。

 ただ、こうしたブームに乗っかって、多くのプレイヤーたちが集まってきて、その中で生き残った企業が世界的な実力を持つ……という展開は中国の勝ちパターンだ。

 今や世界をリードする中国EV(電気自動車)もそうだ。2014年ごろに500社ほどの新興EVメーカーが乱立、ほとんどは1台の車も作れずに破綻、量産できた企業もひどい出来でボロクソに批判されていたが、生き残った会社は今や世界的大企業だ。スマートフォン、太陽光パネル、車載バッテリー、風力発電、ドローンなど多くのジャンルで、このストーリーが繰り返されてきた。ダメ企業とムダ遣いという屍が、エクセレントな企業を生み出す養分となるのだ。

 AIもこのパターンを繰り返すのではないか。中国のAI開発能力は世界屈指とはいえ、企業や消費者の財布のひもは固く、なかなか課金してくれない。昨年末には有力AIスタートアップの零一万物が基盤モデル開発部門を解散したことが伝えられており、そろそろ生成AIの冬が来るのではともささやかれてきた。

 そのタイミングでのディープシーク・バブルだ。熱狂と愛国心に駆られて、AIへの投資、課金が一気に加速した。今の熱狂の多くは誇大広告だが、その熱が中国AIを次のステージへと引き上げそうだ。

 AI開発の行方は国家間のパワーバランスにもかかわるだけに、バカ騒ぎをただ笑ってみているわけにはいかない。警戒が必要だ。

高口康太
ジャーナリスト 千葉大学客員教授
1976年千葉県生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中華人民共和国・南開大学に中国国費留学生として留学。中国経済、企業を中心に取材、執筆を続ける。最新刊に『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文藝春秋・梶谷懐氏との共著)など。

デイリー新潮編集部

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