「日本人だからこそ訴えることができた」…主演俳優「宝田明」さんが初代「ゴジラ」に込められたメッセージを「忘れてはいけない」と言った理由

国内 社会

  • ブックマーク

「ゴジラ」のテーマは「日本人だからこそ」

 その翌年に初主演した作品が「ゴジラ」です。

「ゴジラ」はアメリカでもリメイクされた、世界的な知名度を誇る“怪獣映画”ですが、そもそものコンセプトは違いました。ゴジラは度重なる水爆実験によって安住の地を奪われた“被爆者”なんですね。映画公開時は、アメリカによるビキニ環礁での核実験が大きな社会問題となっており、映画にも核兵器に反対するメッセージが込められていました。

 実際、この水爆実験によって、日本のマグロ漁船「第五福竜丸」の船員たちは死の灰を浴びて被爆しています。船員のひとり、大石又七さんと僕は同い年。後に連絡を取り合ったのですが、今年3月に亡くなられました。

 日本の人口が約9千万人だった時代に「ゴジラ」は961万人を動員する大ヒットを記録します。終戦直後の日本では戦争の傷跡が生々しく記憶され、原爆に対する意識も高かったわけです。「ゴジラ」は商業映画、怪獣映画ではあるけれど、作品の底に流れているのは日本人だからこそ世界に訴えることのできるテーマだった。それを忘れてはいけないと思います。

日本のテレビには幼児性しか感じられない

 多くの民間人が犠牲になっているコロナ禍はまさに戦争に比肩する有事でしょう。ただ、戦争を知る世代の人間としては、どうしても危機感の欠如を感じてしまいます。東西の冷戦は終結したものの、米中の新たな冷戦が始まりました。中国の覇権主義的な動きに加え、中東情勢も悪化の一途を辿っている。本来であれば、各国が利権や兵器製造のためではなく、伝染病を撲滅するためにカネをかけるべきだと思います。

 それなのに日本のテレビをつければ、食べ歩きや大食いの番組ばかり。コロナで大切な家族や仕事を失って、今夜の食事にも困っている人たちの声は全く届いていない。ドラマにしてもバラエティにしても、日本のテレビ番組には幼児性しか感じられません。もっと大人で、利口な国民になるべきだと感じます。尊厳に満ちた、世界から尊敬を集める国にならないと。

 正直に申し上げて、エンターテインメント業界も厳しいですよ。僕らが進めていた企画はほぼ全て潰れてしまいました。公演が中止に追い込まれると、俳優だけでなく裏方として支える何百人ものスタッフが路頭に迷ってしまう。それでもコロナ禍が収まることを願って準備を進めている。民間人が否応なく巻き込まれてしまうという意味で、戦争とコロナ禍は似ています。そうであればこそ、この困難も歯を食いしばって乗り越えるしかないんです。

 ***

 そしてコロナ禍は過ぎたものの、国際社会では戦争のニュースが絶え間なく流れるようになった――。第1回【路地裏へ引きずり込まれる女性、腹に撃たれた「ダムダム弾」を麻酔ナシで摘出…昭和の二枚目スター「宝田明」さんが語っていた終戦後の満洲国】では、人道上の理由で使用が禁止されていた“ダムダム弾”を受け、裁ちばさみで弾丸を取り出した少年時代を語っている。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。