「日本人だからこそ訴えることができた」…主演俳優「宝田明」さんが初代「ゴジラ」に込められたメッセージを「忘れてはいけない」と言った理由
第1回【路地裏へ引きずり込まれる女性、腹に撃たれた「ダムダム弾」を麻酔ナシで摘出…昭和の二枚目スター「宝田明」さんが語っていた終戦後の満洲国】を読む
2022年3月14日、肺炎のため死去した俳優の宝田明さん（享年87）。その前年、コロナ禍の中で応じた「週刊新潮」のインタビューで、「この世代は誰もが戦争を経験し、過酷な人生を強いられました」「民間人が否応なく巻き込まれてしまうという意味で、戦争とコロナ禍は似ています」と語っていた。
少年期を満洲国で過ごした宝田さんの胸には、戦争に翻弄された日々の記憶が深く刻まれていた。「昭和の戦禍を風化させてはならない」と訴えていた宝田さんの思いを、戦後80年を迎えた日本はどう受け止めるのだろうか。
（全2回の第2回：「週刊新潮」21年6月10日号掲載「『宝田明』インタビュー コロナ禍で甦った凄絶『戦禍』『引き揚げ体験』」を再編集しました）
＊＊＊
片言の中国語で盛り上がった先輩俳優
敗戦から1年以上が経過した頃、ようやく我々にも帰国のめどが立ちました。両親と僕、弟の4人は鉄道でハルビンを離れ、途中から日本行きの船に乗ることになった。引き揚げという名の民族大移動です。
後年、東宝で俳優の道を歩み始めた僕は、同じく大陸からの引き揚げ経験がある大先輩と出会いました。三船（敏郎）ちゃんと森繁久彌さんです。2人とも大変な苦労の末に帰国したわけですが、そのせいで相通ずるところがありました。撮影の合間に集まっては、「あの監督は馬鹿野郎だ」「あの女優はこんなとこがあってさ」と、戦時中に覚えた片言の中国語で大いに盛り上がったものです。
とはいえ、引き揚げは過酷な経験でした。僕たちの家族がハルビン駅から中国に向けて出発する際には、ソ連兵によって必要最低限の荷物以外は焚火にくべられました。兄たちの写真まで没収されて燃え盛る炎のなかに放り込まれたのですが、母はなりふり構わず焚火に素手を突っ込んで、焼け焦げた写真を引っ張り出した。母は強し、ですね。その写真は兄たちの遺影として残っています。
[1/3ページ]
