僕は「不倫の孫」で妻は「不倫シングルマザー」のはずだった… 真実を知って40歳夫が身につけた新習慣

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バツイチじゃなくて、既婚男性と…

 勇斗さんがへらを使って器用に作るのを見て、優美さんもその息子も歓声を上げた。勇斗さんは高校時代、よく近所のお好み焼き屋へ友人たちと出かけていた。彼はお好み焼きやもんじゃを作るのが大好きだった。せっせと作ってみんなが食べてくれるのがうれしかったのだ。

「このときもそうでした。優美はいちいち、上手ですね、こんなにきれいに焼けるなんてと言ってくれた。彼女はシングルマザーでした。子供の成長だけが楽しみだと目を細めて。食事が終わり、タクシーでふたりを送っていったんですが、途中で息子が熟睡しちゃって。彼女のアパートに着き、息子を抱いて降りると、コーヒーでも飲んでいきませんかと優美に誘われました」

 息子はすぐに眠り、ふたりはコーヒーを飲みながら自分の状況をそれぞれに話した。優美さんは「私はバツイチじゃなくて、既婚男性と関係をもってこの子を生んだの。彼のことが大好きだったから。でも妊娠を知って彼は逃げた」と告白した。勇斗さんは「不倫の子」だった父親を思い出した。なんだか縁があるなと父のことも話し、ふたりの距離はぐっと縮まった。

アットホームな「結婚式」

 それから時間をやりくりしては会うようになった。息子を巻き込むと、ふたりの関係がうまくいかなかったときに傷つけるだけだ。息子が眠っている間や、優美さんのママ友が預かってくれるときしか会えなかったが、お互いを知るために努力を惜しまなかった。

 5年の歳月を経て、ようやく結婚の意志が固まった。互いに人間関係が狭かったことや優美さんの過去を考えると、大々的な結婚式をおこなうことははばかられたため、ふたりにとって大事な人たちを少人数招いて食事会をしようということになった。

「アットホームないい会になりました。僕のほうは高校時代、料理学校時代の友人と職場の親しい人たち、彼女はやはり昔の友人と職場の人たち。親きょうだいとの縁も切れているらしくて。全部集めても20人にもならなかったけど、信頼できる人たちに囲まれてうれしかった」

 みんなの前で婚姻届を書いた。すっかり勇斗さんに懐いた9歳の息子が、「いいかげん、結婚しなよと、僕がふたりの背中を押したんです」とスピーチをして場内はなごやかな笑いに包まれた。

「それから息子が中学を出るまでは幸せな日々が続きました。彼が高校に入る前に、家族で旅行したいなとふと思ったんです。僕は海外に行ったこともなかったから、妻と息子にサプライズでハワイ旅行でもプレゼントしようと考え、まずは自分のパスポートを作ることにした」

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