トランプ大統領が「日米安保」に不満表明も…日本の「岩盤保守層」が“トランプ支持”を続けるのはナゼか 専門家は「“ロンヤス”が理想像のまま時間が止まっている」

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 いよいよ来た──ついに安全保障に関しても踏み込んだ発言に及んだのだ。ドナルド・トランプ大統領は3月6日、NATO(北大西洋条約機構)に関してヨーロッパ加盟国の負担を「充分ではない」と批判。「もし今後もカネを払わないのなら、私はヨーロッパを守るつもりはない」と言い切った。さらに日米安全保障条約にも触れ、「アメリカは日本を守る責任があるのに対し、日本はアメリカを守る必要がない」ことを問題視し、「興味深いディール(取引)だ」と嫌味を口にした。

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 トランプ大統領の発言は、まだまだ続く。これまでの日米関係は、日本だけに“富”をもたらしたと示唆。「どのような状況であっても日本はアメリカを守る必要がない」ことを強調し、「こんなディールをまとめたのは一体、誰なのか尋ねたい」と付け加えた。

 この質問に、あえて真面目に回答すれば、現在の日米安保は通称「新安保条約」がベースになっている。当時の岸信介首相がサインしたのは1960年1月のことで、アメリカ側はドワイト・D・アイゼンハワー大統領だった。担当記者が言う。

「トランプ大統領は孤立主義=モンロー主義的な外交をちらつかせており、その際にディールという単語が頻出します。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と3月1日に会談した際にも、『君がディールに応じるか、さもなくばアメリカが手を引くか、二つに一つだ』とロシアに有利な和平プロセスに従うよう要求しました。言うまでもなくウクライナはロシアに侵略された被害国です。にもかかわらず、アメリカとロシアだけで勝手に停戦交渉を進めており、それが嫌ならロシアに占領されろと言わんばかりの態度に、違和感を覚えた人も多かったのではないでしょうか」

「トランプにゴマをすれ」

 太平洋戦争に敗れた日本は、当時の吉田茂首相が推し進めた“保守本流”──、つまり軽武装・重経済・日米安保堅持を国の方針と位置づけて高度成長を実現。1968年にはGDPが世界2位の経済大国となった。

 しかしトランプ大統領は日米安保に不満があるようだ。これでは“保守本流”の理論的基盤を根底から覆しかねない。保守思想に詳しい評論家の古谷経衡氏に話を聞いた。

「2月に石破茂首相がトランプ大統領と会談しました。もちろん私は満点をつけるつもりはありませんが、及第点だったとは考えています。多額の対米投資、アラスカの液化天然ガスの輸入増といった石破首相の“手土産”が功を奏しました。そして注目すべきは、民間ベースのものが目立つということです。一見するとアメリカに対して徹底的にサービスしたように思えますが、政府が直接的に関与するような約束は回避できている。国を挙げて“トランプ様に献上する”という姿勢ではなく、トランプ政権を喜ばせながらも、しっかり距離も取っているわけです」

 ところが、いわゆる“岩盤保守”と呼ばれる、やや右寄りの保守層は、メディアも論者も一斉に石破首相を批判した。

岩盤保守はトランプ大統領がお好き

「岩盤保守は『安倍晋三首相の時は、もっとトランプ大統領と深い友好関係を築いた』、『石破首相はトランプ大統領との距離を縮められなかった』などと苦言を呈しました。しかし、一方的な関税政策や、ヨーロッパ軽視などの発言を巡り、かなり多くの国々の首脳がトランプ大統領に対する批判を強めています。ところが岩盤保守は世界各国の懸念など無視し、『石破首相は何を置いてもトランプ大統領にすり寄ってゴマをすれ』と要求していることになります」(同・古谷氏)

 岩盤保守と言えば、日本国憲法を「GHQ(連合国総司令部)=アメリカに押し付けられた憲法」と批判し、自主憲法制定・憲法9条改正・対米自立を主張してきたはずだ。

 本来であれば、トランプ政権の孤立主義的な外交政策は、従来の主張を実現させるチャンスのように思える。なぜ岩盤保守はトランプ大統領を高く評価し、「もっと仲良くなれ」と訴えるのか。

「トランプ大統領が、よりによって日米安保への不満を漏らしてくれたのです。岩盤保守は今こそ『日本は自衛隊だけで守る』、『在日米軍は母国に帰っていただく』と主張するのかと思いきや、“吉田ドクトリン”である日米安保堅持しか訴えません。これには一応の理屈があるようです。それは『親中の民主党政権とは距離を置くべきだが、親日の共和党政権とは関係を深めるべき』という判断です。確かにアメリカの歴史を振り返れば、両党にそういう傾向が認められた時代があったのは事実でしょう」(同・古谷氏)

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