最近のドラマがそぎ落としてしまう「間」にほれぼれ 倉科カナが難病を患ったカメラマンを演じる「今期最も美しいドラマ」

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 基本、映像美にあまりこだわりはないが、これだけは4K大画面で観たいと思わせるのが、源孝志の作品。確信犯的に日本の伝統美や佳景を魅せてハッとさせる。私はこんなに美しい国に住んでいたのかと。劇中では時がゆったりと流れ、演じる役者も居心地がよさそう。今期で最も美しく鷹揚な世界観を味わうことができる「TRUE COLORS」の話だ。シンディ・ローパーの同タイトルの主題歌にもグッときちゃうお年頃。

 倉科カナが演じる主人公はカメラマン・立花海咲。有名な写真家・木嶋作太郎(石橋蓮司)に師事した後に独立。海咲の類いまれなる色彩感覚と美的センスにほれこんだファッション誌の編集長・巻上伸哉(滝藤賢一)が、公私ともに後押し(囲い込み、とも)。専属契約を結んで「色彩のディーバ(女神)」と海咲を売り出す。

 海外ブランドからも声がかかり、名実ともにトップフォトグラファーとなった矢先に、錐体ジストロフィーという難病を発症。もともと色弱はあったが、今後は色覚異常や視力低下などが起こるという。カメラマンにとっては致命的な病。それを知った巻上は専属契約を破棄、蜜月関係も終焉(しゅうえん)を迎える。職も恋人も失い、絶望の淵に落とされる海咲。

 そんな折、故郷の妹・七瀬(穂志もえか)から手紙が届く。自身の結婚式に出てほしいという。22年前、海難事故で行方不明になった父(北村一輝)への思慕が強い海咲は、母(賀来千香子)の再婚を許すことができず、継父となった辻村(渡辺謙)を忌み嫌い、18年間一度も帰郷せず、独りで生きてきた。

 ここまでは一人の女が歯を食いしばってきた過程だ。カナが演じることで、画面には映らない多くの屈辱や辛酸も想像できた。体力勝負の男社会で女のカメラマンがどんだけ嫌な思いをして、いらん苦労をすることか(カメラマンの友人が語る地獄が凄絶だったので)。

 海咲は思い立って帰郷、舞台は熊本県の天草に移る。傷心と絶望を抱えた海咲を待っていたのは、幼なじみでソウルメイトといってもいい松浦晶太郎(毎熊克哉)やその両親(中原丈雄・宮崎美子)。温かく迎えられて、高校の恩師・美徳先生(加藤雅也)とも再会し、海咲は不安でこわばっていた心がほぐれていくのを実感する。

 また、高校の先輩(玉置玲央)が運営するNPOが、父の船の浮輪を見つけてくれた。これを機に、晶太郎の父が重い口を開き、事故の真相を語り始める。思いもかけない恩讐の真実は、亡き父とのつながりを感じられるものであり、母や継父の配慮を知るものでもあり。故郷の人々の優しさに包まれ、海咲は人生のリスタートをきっていくことだろう。

 絶望からの再生を描くと同時に、テーマである色がもたらすグラデーションを、象徴的に物語に織り込むあたりにも洗練の妙を感じる。セクシュアリティーやハンディキャップ、生きざまの多様性をさらりと描く「粋」。解説ではなく対話を重視し、心情描写は手を抜かずに時間をかける。昨今のドラマがそぎ落としてしまう「間」にもほれぼれする。成熟のひとときに、心が洗われる。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年3月13日号掲載

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