「噛み合わないエピソード」プロも酷評 「おむすび」朝ドラ最低視聴率を更新か 視聴者を第一に考えないNHKの態度

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まず視聴者の声に耳を

 受信料の形でNHKの運営費の大半を拠出している視聴者は、「おむすび」への評価をシビアに下すべきである。同局が外部の手を借りずに制作しているドラマは今や朝ドラと大河ドラマくらいしかないこともある。

 万一、このまま朝ドラの力が弱ってしまうと、NHKドラマは危機を迎えてしまう。ドラマや映画に対し時には厳しい声を浴びせるのは海外では常識である。NHKも率直な言葉で視聴者と向き合う時期だろう。昭和、平成ではないのだ。

 NHKを支えている視聴者が、該当する番組をどれだけ観ていたかを示すのが視聴率である。その数字は前々作「ブギウギ」の全回平均の世帯視聴率が15.9%(個人9.0%)。前作「虎に翼」は世帯16.8%(個人9.4%)。

「おむすび」の105回(2月28日放送)までの平均視聴率は世帯13.3%(個人7.5%)。過去最低は「ウェルかめ」(2009年度後期)の世帯視聴率13.5%(当時は個人視聴率の公表はなし)。このままだと更新する可能性がある。

 視聴率についてはかなり誤解がある。まずNHKも視聴率を大いに気にする。受信料を半ば強制的に徴収できているが、観てもらえなくなったら、受信契約を打ち切られる怖れがあるためだ。

 朝ドラがBSでも観られるから「おむすび」は視聴率が獲れないとの声もあるようだが、BSデジタルでの朝ドラの放送は2007年には始まっているから関係ない。そもそも条件は前々作「ブギウギ」や前作「虎に翼」などと同じだ。

 2020年に始まった動画配信のNHKプラスが伸びているから視聴率が獲れないという意見もあるものの、NHKプラスのID(利用)登録者数はまだ591万6000人に過ぎない(昨年の四半期業務報告、同12月末)。利用者数はもっと少ない。4107万の受信契約件数には遠くおよばない。

 テレビを観る人が減っているから視聴率が獲れないという意見もあるが、これは微妙である。総世帯視聴率(HUT=テレビ放送をリアルタイムで見ていた世帯の割合)は確かに漸減傾向にある。

 もっとも、「ウェルかめ」の放送された2009年も2020年も全日帯(午前6時~深夜0時)の総世帯視聴率は40%台前後で、ほとんど変わっていない。1970年代や1980年代のHUTと最近のものを比較するのはさすがに無理があるものの、HUTは長い期間を経ないと大きくは動かない。

 各局が連日チェックしている年齢別、男女別の個人視聴率データを見ると分かるのだが、朝ドラの視聴者で圧倒的多数を占めるのは50代以上の女性である。

 民放制作者によると、「おむすび」の場合、50代以上の女性の約6人に1人以上が観ている。「虎に翼」より2割程度落ちたが、それでも最大支持層である。

 一方で「おむすび」は女性20~34歳(F1層)は100人に1人程度しか観ていない。同35~49歳(F2層)も100人に5人程度が観ているに過ぎない。働く人が多いF1層とF2層が朝ドラを観られないのは毎度のことである。

 メイン視聴者層が50代以上の女性であることを考えると、結のキャラクター設定が正しかったのかどうかという問題がある。現在の23週(3月10~14日放送)では31歳になり、かなり落ち着いたが、以前はガングロメイクでパラパラを踊り、プリクラを撮りながら「アゲ~」と奇声を上げた。視聴者側には好き嫌いがあっただろう。

 専門学校初日(11月20日放送の第38回)にはギャルメイクで登校。悪びれずに「付き合っている彼氏が野球をやっていて、プロを目指しているので、彼を支えるために栄養のことを学びたい」と語り、クラスメイトを面食らわせた。笑顔で観ていた視聴者ばかりではないのではないか。

「おむすび」はヒロインにモデルがいないから苦しかったという声もある。しかし、これは逃げ口上にならない。

 2000年度以降、「おむすび」までの朝ドラ50本のうち、モデル不在のドラマは31本もある。その中から「ちゅらさん」(2001年度前期)、「どんど晴れ」(2007年度前期)、「あまちゃん」(2013年度前期)などのヒット作が生まれた。

「おむすび」はありのままの姿で視聴者の審判を受け、NHKも本音で視聴者と向かい合うべきだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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