「喜ぶのは偏差値の低い私立高校だけ」 高校授業料無償化で何が起きる? 「行ける高校が近隣になくなる子も」

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「公立の質を良くして、私立との格差を埋めていくことの方が」

 無償化には5500億円の財源が充てられるが、

「それだけの予算があるのであれば、小中学校を含めた公立の学校を何とかすべきです。公立学校は今、教師のなり手もいません。先生たちの労働環境を改善し、給料を上げ、老朽化が進む建物や設備を整備する。とにかく公立学校の教育現場を改善していく。公立の質を良くして、私立との格差を埋めていくことの方が、よほど日本全体の教育の役に立ちます」(中澤氏)

 大岡敏孝衆院議員も、税金を費やすならば、手当てすべきことは他にあると訴える。

「社会へのメッセージとして、ちゃんと手に職をつけようとしている生徒を支援する姿勢を打ち出すべきではないでしょうか。工業高校、商業高校、農業高校、水産高校、看護学校、調理師学校――。そういう手に職をつける専門学校を無償化するほうがいいと個人的には思います」

「競争原理だけで学校を淘汰してはダメ」

 ことほどさように、多数の専門家らが反対しているにもかかわらず、維新が高校無償化を看板政策に掲げてきたのはなぜか。

 大阪大学大学院人間科学研究科教授で、教育社会学などが専門の高田一宏氏が言う。

「維新が大阪府で私立高校の授業料を無償化した背景には、私立と公立を競わせて、定員割れが続いた公立校は再編整備の対象にするというロジックがありました。それで実際に統廃合が進んだのですが、定員割れが続いている学校には、学力に課題がある生徒、障害のある生徒、外国から来た生徒の受け皿になっているところが多く、これらの生徒の進路選択の幅を狭めることになりました」

 大阪では進学できる高校が減った結果、こんな事態を招いているそうだ。

「子どもがそれぞれの事情に適した教育を受けられなくなることで、不登校や中退が増えた可能性があります。事実、大阪は不登校率が全国1位。中退率も高止まりです。多様な子どもたちに適した教育を施すためには、競争原理だけで学校を淘汰してはダメなんです」(同)

「行ける高校が近隣になくなる子も」

 ここで再び、松野校長にご登場願おう。

「私立は、おおむね交通の便が良い場所に校舎があります。市内の中心部を離れた場所では、もともと私立のない地域が多いんです。目下、大阪の中でも、県境に立地する高校から閉校になっています。私立の学校がないところで公立高校まで廃校になると、その地域の子は行ける高校が近隣になくなります。教育空白地帯が生じてしまうんです」

 前出の赤林氏は、維新のそもそもの腹積もりに着目している。

「高校無償化政策の背景には、大阪で始めた“所得制限なしの公立・私立の無償化”の負担を少しでも減らしたいという意図があるのではないでしょうか。自治体の首長が国政政党の代表を兼ねる現状は、国政の優先順位にゆがみを与えます。この矛盾だらけの制度を国に導入するに際しては、もっと慎重な精査が必要でした」

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