「喜ぶのは偏差値の低い私立高校だけ」 高校授業料無償化で何が起きる? 「行ける高校が近隣になくなる子も」

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「公立の多くが定員割れに」

【前後編の後編/前編からの続き】

 自民党と公明党は日本維新の会の要求をのんで、予算成立と引き換えに高校授業料を無償化することで合意した。だが、専門家は無償化という聞こえのいい言葉に惑わされてはならないと警鐘を鳴らす。かえって、教育格差を招くなど深刻な懸念があるというのだ。

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 前編【「裕福な家庭にも、税金から支援金が」 私立高校無償化の“負の側面”を専門家が解説 「教育の過熱化につながりかねない」】では、私立高校の授業料無償化による“負の側面”について紹介した。

 慶應義塾大学経済学部教授で、同学部附属経済研究所こどもの機会均等研究センター長の赤林英夫氏も授業料無償化に批判的だ。

「経営がうまくいっていなかった私立高校が救われるでしょう。教育の質が高いとはいえず、ただ見栄えの良い制服や奇麗な校舎を前面に出して生徒集めをしていた私立に、これまで公立に進学していた層が通うようになるからです」

 実際に参考になるのが、維新の共同代表・吉村洋文氏(49)を知事にいただく大阪府の惨状である。

 大阪府立佐野工科高校の松野良彦校長の話。

「大阪では24年度から所得制限が撤廃され、私立が実質無償化していますが、公立の多くが定員割れになってしまっています」

 公立の全日制145校のうち、実に半数近い70校が定員割れとなったそうで、

「これまで定員割れしていなかった中間層の高校にも定員割れするところが出ています。私立高校は単願だと(合格が)早く決まりますし、一般入試でも3教科のところが多いため、私立に流れてしまったんです。いったん定員割れすると“定員割れした高校”というレッテルを貼られてしまう。受験生の数を元に戻すのは至難の業です」

 高校無償化は、むしろ公立高校の地盤沈下を招きかねないというわけだ。

「義務教育が有償で、義務教育じゃないほうが無償というのは違和感」

 加えて、私立無償化の拡充策には次のような懸念もあるという。

「無償化に乗じた授業料値上げの心配もあります。私立無償化を進めるのならば、せめて私立は授業料を一定期間上げてはならない、入試科目を公立と同じにするなど、細かな規定が必要です。ただ、私立は授業料の代わりに、他の見えにくい費用を上げてくる恐れもあります」(前出・赤林氏)

 一方、立教大学社会学部社会学科教授の中澤渉氏の視点は少々異なる。

「私立は基本的には国が定める学習指導要領などに則りつつも、各校は独自の教育プログラムで付加価値を産んでいます。ところが税金への依存度が高まると、公立高校のように国の規制も厳しくならざるを得ず、高校は国に対して逆らいにくくなります。長期的には学校運営にも影響が出て、教育の独自性が失われてしまうでしょう」

 続けてこう言う。

「そもそも義務教育である小学校や中学校は私立だと授業料を支払わなければならないのに、なぜ義務教育ではない高校が私立でも無償化されるのか。義務教育は有償で、義務教育じゃないほうが無償というのは違和感がありますよね。制度設計として、どう考えてもおかしいんですよ」

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