「成人の9割が、帯状疱疹の原因となるウイルスを持っている」 恐ろしい帯状疱疹について専門家が警鐘 「一生苦しむケースも」
【全2回(前編/後編)の前編】
最近とみに耳にする機会が増えた「帯状疱疹」の予防策に、ようやく国が本腰を入れ始めた。大人なら誰もが発症するリスクを抱え、その対処が遅れれば重篤な後遺症を患う危険性が高い。まさに「正しく恐れる」ことが肝要な“国民病”への完全対策をお届けする。
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いよいよ今年4月から、国が65歳以上を対象に、帯状疱疹を防ぐワクチンの定期接種を始める。このニュースを耳にはしたが、何気なく聞き流してしまった。そんな人も多いのではないか。
規則正しい生活を送っていれば防げるだろう。幼少期に「水ぼうそう」にかかった人がなる病気だと聞いた。まだ自分は65歳以上ではない。だから帯状疱疹なんて関係ない――などと考える人もいるだろう。
だが、今や日本人の3人に1人が80歳までに帯状疱疹に罹患する時代。大半の日本人が発症リスクを持つ病なのをご存じだろうか。
「日本人の成人男女の9割が、帯状疱疹の原因となるウイルスを持っている」
その名が表すように、帯状疱疹は体の一部に帯状の疱疹ができる病気だ。疱疹が現れる前後で痛みを伴うことが多く、その症状も軽度から重度までさまざまだという。
過去には上皇后美智子さま(90)、皇后雅子さま(61)が発症され、入院を余儀なくされたこともあった。著名人でいえば、女優の米倉涼子(49)が、ドラマ「ドクターX」シリーズ(テレビ朝日系)に主演した際、帯状疱疹に悩まされたことをインタビューで明かしている。筋骨隆々のアスリートとて例外ではなく、巨人の阿部慎之助監督(45)も現役時代、2013年のリーグ優勝直前に発症しスタメンを外れた。昨年末には、タレントの貴島明日香(29)も発症するなど、20代を含めいつ誰がかかってもおかしくない病なのだ。
「日本人の成人男女の9割が、帯状疱疹の原因となるウイルスを持っているといわれています」
そう話すのは、奈良県立医科大学皮膚科学教室教授の浅田秀夫氏である。
「正式名称は『水痘帯状疱疹ウイルス』で、名前の通り二つの病気を起こします。一つ目は、最初にウイルスに感染した際に発症する『水ぼうそう』。それが治っても、ウイルスは体から完全に消えることはなく、神経節の中に潜んでしまう。大抵は子供の頃に罹患します。『水ぼうそう』にかかった記憶がないという方もいるかと思いますが、実は症状の出ない不顕性感染をしている日本人は多いのです」
「視力低下や難聴を招く恐れも」
“内なる爆弾”を抱えた人が大勢いるワケだが、このウイルスが引き起こす二つ目の病気こそが帯状疱疹なのだ。故に帯状疱疹は「体の中に潜むウイルスが引き起こす病」といわれる。
浅田氏の解説によれば、
「先ほど申し上げた通り神経節に潜むウイルスが、体内で再び活発化すると、神経に沿って皮膚まで達して発疹となり、水ぶくれが多数集まった疱疹と呼ばれる病巣が帯状に広がります。これがいわゆる帯状疱疹です。通り道となる神経が体内で帯状に広がっているので患部も同様に見えるのです。その過程でウイルスが神経を痛めますから、神経痛が生じます」
神経が走っているところなら体のどこにでも症状が現れ得る。
「発疹が胸や腹部などに出た場合は気付くのが容易ですが、頭髪に隠れた部分や背中など目視が難しい場所なら、かぶれたのかな、虫刺されかなと勘違いして発見が遅れてしまう。懸念されるのは顔の辺りにできる帯状の疱疹。手当てが遅れると顔面神経まひなどの合併症を起こす可能性があります。特に目や耳などの感覚器の周辺ですと視力低下や難聴を招く恐れもある。鼻背部に発疹が出ると、目の方にまでウイルスが到達する可能性が高く、角膜炎や虹彩毛様体炎を引き起こすと後遺症が残ってしまうことがあります」(同)
「排尿や排便の機能に障害が残るケースも」
手足などに症状が現れた場合も要注意だとして、浅田氏はこう続ける。
「運動機能が低下して障害が残る場合があります。私の知っている患者さんの中には、神経がダメージを受けて手の握力が落ち、満足にモノを持てなくなった方もいます。あるいは、排尿や排便の機能に障害が残ったりする方もいます。また免疫機能が弱っている場合、神経だけでなく血中にもウイルスが流れ、全身に水疱が広がることがあります。その場合、ウイルス性の肺炎や脳炎のリスクが上がります」
人間の体を司る神経は左右に分かれて組織されている。そのため、帯状疱疹の初期症状として特徴的なのは、体の左右どちらかに痛みと発疹が起こること。ただし痛みと発疹は同時に起こらない場合もあって、発見が遅れてしまうことに注意が必要なのだ。
「よくある頭痛だと当初は気にしていなかったのですが……」
「私は左耳の辺りが帯状疱疹になったのですが、初めの症状は頭痛のみ。痛みが前後左右に動くことはなく、常に左側の同じ場所がズキンと痛みました」
そう振り返るのは、昨年9月に帯状疱疹を発症したフリーアナウンサーの早坂まき子氏(43)だ。
「よくある頭痛だと当初は気にしていなかったのですが、症状が現れた翌日の朝からは、ズキン、ズキンと締め付けられるような痛みが連発するようになっていきました。それで最初は脳出血を疑い、脳神経内科でMRI検査までしたのですが、特に異常は見つからなかった。また夫が行きつけの整体の先生に話したら、“顎関節症かもしれない”と指摘されたので、念のため歯科でも診てもらったのですが、所見ナシと言われてしまいました」
「疱疹が15個程度に増殖」
すでに発症から4日がたったが、医療機関を渡り歩く彼女の頭痛は悪化の一途をたどっていた。
「もう痛みが強烈で、ご飯を食べるのも、お風呂に入るのもしんどい。スマホやテレビも見られない。横になっても満足に寝られない。そんな中、歯科で処方された痛み止めの薬を受け取るため、夫と薬局に行って並んで待っていた。たまたま私の左側に立っていた彼が“耳にポツポツが出ているよ”と気付いた。それで帯状疱疹じゃないかとなって耳鼻科に行ったら、そうだと診断されたんです」
最初は一つだった疱疹が、最終的には15個程度に増殖。水ぶくれになった。患部の腫れは塗り薬で沈静化して、頭痛も、処方薬を1週間ほど飲み続けたら治まったそうだ。
「とにかく早く病院で診察を」
帯状疱疹と診断された場合、多くの患者は飲み薬の「抗ウイルス薬」を処方されるが、服用は早ければ早いほどよいとされる。
中野皮膚科クリニック院長の松尾光馬氏によれば、
「帯状疱疹を発症してから、最初の72時間でウイルスの増殖はピークを迎えます。医師から処方される抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑える目的がありますから、服用が早いほど効果が高い。早期に正しく診断されて処方されるのが望ましいですが、仮に3日たってしまっても諦めず、とにかく早く病院で診察を受けて、抗ウイルス薬を飲んだ方がいい。一般的な内科より、皮膚科の方が痛みと発疹の両方を診てもらえると思います」
初期に抗ウイルス薬で帯状疱疹を抑え込めれば、神経のダメージも少なくて済む。治療が遅れると神経が傷つき、前述したような後遺症が残ってしまう。
「ひどいケースだと、一生苦しむことにも……」
松尾氏が続けて話す。
「後遺症で一番多いのが『帯状疱疹後神経痛(PHN)』と言って、患部に痛みが残ることです。帯状疱疹になった60歳以上の約2割がなりますが、ある程度の時間がたてば痛みはなくなります。とはいえ、私が診ている患者さんの中には数年続く人もいれば、10年以上治らない人もいる。まれにひどいケースだと、一生苦しむことにもなりますから、早めの診察が大切です」
ところが、前出の早坂氏はPHNとは異なる合併症に苦しむことになってしまった――。
後編【「笑おうにも顔がまったく動かせなくなり…」 帯状疱疹の恐怖体験をフリーアナ・早坂まき子が明かす】では、早坂氏が体験した恐怖の合併症について語ってもらう。