「青々とした緑」とは“何色”なのか? 「日本語教師」が明かす“国語”ではなく“日本語”を教える難しさ…「暗黙のルールで教室では触れない話題もあります」

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「戦争の話はしない」という暗黙のルール

 余談にはなるがもう1つ、日本語教育の現場の徹底ぶりで印象深いのが「教室の雰囲気づくり」だ。

 日本国内の日本語学校では、多くの国が集まる教室内において、戦争や宗教、歴史、性的な話はタブー視されていることがほとんどだ。多国籍の教室内で、「第二次世界大戦」について質問したりすると、それぞれの思想を刺激しかねないからだ。

 一方、アメリカの語学学校は雰囲気が全く違う。

 筆者は一時期、ニューヨークにある語学(英語)学校に通っていたことがある。その教室には、イスラム圏やアジア各国からの学生や、国を逃れてきた難民の学生などもおり、日本の日本語学校よりも国籍が豊かだったのだが、そのクラスで教鞭をとる教師が、ディベートのテーマで掲げた内容リストは、誰もが息を飲むものだった。

「娼婦の存在は必要か」
「広島・長崎への原爆投下は必要だったか」
「人工妊娠中絶に賛成か反対か」

 当然、教室は荒れに荒れた。なかにはその後しばらく学校に来なくなってしまった人もいたのだが、こうした話題についても躊躇なく議論をする国だからこそ、ディベートが強いのかもしれないと思うに至った。

現場の課題

 そんな忙しくも刺激的な日本語教師の仕事だが、現場には大きな特徴がある。「女性の講師が多い」ことだ。

 日本語教師の約7割が非常勤講師とされているが、その多くは女性講師だ。ある男性日本語講師は、自身の現場をこう語る。

「若い講師は少ないですね。とりわけ既婚で子育てが一段落した女性が多い」

 女性が多く男性が少ない大きな要因の1つは「収入面」だ。

 日本語教師の時給は、1コマ(45~50分)2000円~2500円と、世間一般より高めのところが多いが、既述通り準備が多く受け持てるコマ数が限られてしまうため、結果的に「フリーターよりも賃金が安い」と嘆く教師が少なくない。その結果、家族を養う人たちの選択肢として日本語教師は選ばれにくくなってしまうのだ。

 しかしその一方、学生たちからは「男性講師に習いたい」という声がかなり多い。筆者が教えていたフランス人男性の元学生はこう話す。

「アニメやアイドル、ゲームが好きで15年ほど前に留学しました。趣味が合うのはやはり男性。もし担当の先生が男性だったら、もう少し日本のサブカルについて気軽に質問できたかもしれません」

 また、留学生とは別に、日本語を学ぶ生徒には、仕事をしに来日した駐在員たちもいるのだが、その7割は男性だ。彼らからは、とりわけ「ビジネスマナーに精通した、ビジネス経験のある男性講師からレッスンを受けたい」という要望は多い。

 性別に限らず、このように来日目的が多様化する学生に対応するためには、教師側も様々な趣味や経験、バックグラウンドが必要になるといえる。日本には外国人を魅了する様々な文化的背景がある。それを少しでも伝えられるよう、伝える側の多様化が急がれる。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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