“動く機関車”を自宅に保存…40代のがん診断で目覚めた「趣味の達人」が説く「定年後では遅い」理由

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あちこち旅行に行きたい? 定年後では「もう体が動かないですよ」

 趣味に力を入れたこの10数年を振り返りこう語る。

「バリバリ仕事をやってたらよりいい給料をもらえたかもしれないけど、今となっては、あの時にがんになって良かったと思ってます。よく定年になったら『趣味を楽しむ』とか『あちこちに旅行に行く』という人がいますが、65歳までみっちり働いて、そこから本格的に趣味を始めると言っても、もう体が動かないですよ」

 歩鉄さんはがんになったことをポジティブにとらえている。

「私の場合は50歳前にがんになり、仕事だけの人生から、趣味も十分に楽しむ人生に変えることができました。趣味はどんどん増えるし、趣味キッカケで人脈が広がりました。『家に動く本物のディーゼル機関車があります』と言ったら、みんな興味を持ってくれるし、一発で覚えてくれます。おかげで毎週土日が忙しいです(笑)。趣味をしっかりやりたいなら、定年は待たないほうがいいです」

 もちろん、仕事も手を抜いているわけではない。60歳になろうかというタイミングで、仕事に必要な新たな資格を取得した。

 話をディーゼル機関車に戻すと、次は「機関庫」を造りたいという。それも趣味に関連させた形でだ。

「レンガで機関庫を造りたいんです。“ねじりまんぽ”にしたいんですよね」

 ねじりまんぽとは、レンガを斜めに積んで造られたトンネルのことで、天井部分はレンガが渦を巻いているように見える。明治~大正期に造られ、今も残っているのは、全国で20数か所のみだ。全国のレンガ構造物を記録する趣味もある歩鉄さんは、このねじりまんぽを愛好してきた。

 機関庫計画の問題は、大正以降はねじりまんぽが造られなくなったため、技術が継承されていないということ。どうすればあの独特の構造にできるのか、知っている人がいないのだ。ではいったいどうやって造るのか?

「見よう見まねで、考えながらやりますよ。試行錯誤したり研究するのが楽しいんです。人がやっていないことをやって得られる達成感ってあるじゃないですか」

 そう笑顔で語る歩鉄さん。骨の髄まで趣味の人である。

華川富士也(かがわ・ふじや)
ライター、構成作家、フォトグラファー。記録屋。1970年生まれ。長く勤めた新聞社を退社し1年間子育てに専念。現在はフリーで活動。アイドル、洋楽、邦楽、建築、旅、町ネタ、昭和ネタなどを得意とする。過去にはシリーズ累計200万部以上売れた大ヒット書籍に立ち上げから関わりライターも務めた。

デイリー新潮編集部

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