耐震や駅チカだけじゃない… これから「住宅の価値」を大きく左右する“新たな格差”とは
実は日本の住宅はいま、一つの“転換期”にある。今年4月から、新たに建てられる住宅で「断熱等級4」への適合が義務化されるのだ。「断熱等級4」は、2022年4月までは国が定める最高等級とされていた。その等級4がいきなり最低基準とも言える義務化となるのには、海外に比べて劣る日本の断熱事情に、政府がようやく重い腰をあげた、という背景があるようだ。
***
7段階になった日本の断熱等級
断熱等級とは、その名の通り住宅の断熱性能を示す指標のことで、現在は1~7の等級に分けられている。等級の数字が大きい方が断熱性能に優れ、4月から義務化される「断熱等級4」は、いわゆる「次世代省エネ基準(平成11年基準)」に沿った、エネルギー削減対策が施された住宅のこと。
これが「断熱等級5」になると、そこから20%省エネ性能がアップする。近ごろの新築マンションの“売り文句”としてもよく耳にするZEH(ゼッチ)の水準にあたる。ZEHは「Net Zero Energy House」の略語で、太陽光発電などで生み出したエネルギーによって家庭内のエネルギー消費量を抑え、実質消費エネルギーをゼロ以下にする(※)、というコンセプトだ。
さらに断熱性能がアップした「断熱等級6」は、「4」から30%の省エネ性能を持ち、最高の「断熱等級7」は「4」からさらに40%の省エネ性能を誇る。「7」ともなれば、エアコン1台稼働させれば家中暖かく、関東地方であればなんと冬でもTシャツ1枚で快適に過ごすことが可能だ。
「断熱等級4の義務化により、新築物件の断熱性能が底上げされ、冬場はより暖かく、夏はより涼しい、いまよりは快適な住宅が増えていくことが期待できます。断熱性能の向上は単なる快適さだけではなく、ヒートショック対策や、熱中症対策にもつながりますし、エネルギーの無駄を省くことで光熱費の削減や地球温暖化対策にも有効です」
そう話すのは、日本の住宅性能に詳しいノンフィクションライターで、『「断熱」が日本を救う』(集英社新書)の著作のある高橋真樹氏だ。高橋氏は、自ら断熱等級7の家に暮らし、体験を発信している。
ただ、高橋氏は今回の義務化を歓迎すべき法改正だとしつつも、「あまりに遅すぎた」とも指摘する。
※エネルギーは空調・給湯・照明・換気のみで計算されている。
「断熱後進国」の日本
「実は2019年の時点で、既存住宅5000万戸のうち、当時の最高性能である断熱等級4の基準を満たしている住居はわずかに13%しかありません。また、断熱等級4は、国際的に見るとまったく不十分な断熱性能です。こうした状況を生んだのは、日本社会の断熱への意識の低さがあると言われても仕方がありません」(高橋氏)
海外と日本との断熱性能を比較する上で、参考になるのがUA値(外皮平均熱貫流率)だ。この値が少ないほど、住宅の断熱性能が優れていることを示す。日本の「断熱等級4」は、UA値で示すと0.87になるが、他の先進国の数値をいくつか並べるとこのようになる(※)。
韓国0.54、アメリカ(カリフォルニア州)0.42、ドイツ0.36、イギリス0.32。
しかも、日本の等級4が義務化されるのは25年4月からに対して、これらの国ではそれよりずっと性能の良いこの数値をずっと以前から義務化してきた。
ちなみに、住宅メーカーが新築住宅やマンションの性能アピールに用いる「ZEH(=断熱等級5)」も、これらの先進国では既に当たり前となっている。
「もちろん、断熱等級4が“最高性能”だったこれまでと比べれば、断熱等級3以下の住宅が建てられなくなる4月以降は大きな前進と言えるでしょう。ただ、先進国の基準で言えばそれでもまだ不十分です」(同)
2030年に今度は新築住宅で「断熱等級5」の義務化が予定されていることからも、そうした実情が窺える。
「もともと断熱等級4の義務化は2020年の実施が予定されていました。ただ結局は先送りされた経緯があります。2030年の等級5の義務化は予定通りに進むといいのですが」(同)
ここにきて住宅の「断熱事情」に大きな変化が起こりつつあることは分かったが、それでは今年3月までに建設された住宅を購入した人は“損”してしまうことになるのだろうか――?
※日本の0.87は東京、大阪などが含まれる気候区分での数字
[1/2ページ]