佐々木浩さん「私の食卓日記」 京都の「ミシュラン3つ星店」主人の“日常食”は?
1週間の食生活でかいま見える人となり――。週刊新潮に掲載されている人気コラム「私の週間食卓日記」では、著名人の食事記録を元に、献立評論家の荒牧麻子先生がアドバイスしています。今回は2019年からミシュラン三ツ星を更新中の京都「祇園さゝき」の主人・佐々木浩さんが登場。1週間に食べた献立には、どんな美食が登場するのだろうか――?
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ミシュランの発表は毎回緊張しますが、この「週間食卓日記」もドキドキです。自分がいつも食べているものが採点されるんですよね。三つ星店主が、もし欠点(関西で落第点のこと)取ったら、めっちゃ格好悪いやん。でも、正直に書きますね。
1月29日(水)
7時半起床。滋賀県の自宅から毎朝、京都の建仁寺の近くにある店まで車で通勤しています。朝食はスピードが勝負。今日は名神高速道路のSAできつねうどんをよばれました。ぼくは料理人なのに猫舌ですが、ささっと食べて店へ向かいました。
この日は出かける用事があって、お昼もうどん。「丸亀製麵」で鴨うどん、ちくわの天ぷら、おにぎりを注文しました。時間がないときは、うどんとおにぎり。ぼくは白飯が大好きなので、うどんの時もおにぎりを追加します。十代の頃から矢沢永吉さんの大ファンで、永ちゃんも白飯が好きと著書の『成りあがり』で知って、めっちゃうれしかったですね。
夕食はお造り(関西では刺し身のこと)二種(鮃・鱈)と、長女の結花が作ったきんぴらごぼうと、次女志歩が作った切り干し大根を食べました。娘たちはそれぞれの家庭で作ったおかずを料理人の父親に差し入れることにプレッシャーを感じるようですが、なかなかおいしかったです。お造りは大好きで、一年で360日は食べてますね。お造りは、塩をしてじっくり熟成させると旨みが増します。ただ、ぼくが食べるのは、お客さまにお出しするお造りの切れ端ですけどね。
1月30日(木)
朝ごはんは昨夜のお造りの残りと、ごはんをいただきました。店や家で食べるお米が旨いんです。高校時代のツレが作ったもので、半月ほど天日に干すから甘みが違います。
昼食はおにぎりと漬物。夕食は平目、鮪、海老のお造りと、おでん。今夜も接客しながら、昨年10月に出版した新刊『孤高の料理人~京料理革命』をご案内。するとみなさん記念に、と快く購入してくださって、ほんまおおきに!
1月31日(金)
朝食は京都中央市場の買い出し後、市場で鍋焼きうどんを食べました。昼食はうちの店で賄いをいただきました。いま、店で働いてくれている弟子は6人います。順番に賄いを作ってもらいますが、本日は下澤君がすき焼き煮を作りました。ちょっと味つけが濃かったかな。ぼくは賄いの感想は言いません。ほんまにおいしい時だけ、「おいしいな」と伝えて、それ以外は黙っとく。本人が一番よくわかっているはずやから。
夕食は、お造り(平目、鮪)、魚と南京のたいたん。京都の人は、煮物を「たいたん」といいますねん。
2月1日(土)
朝食は京都南インターを降りたところにある「吉野家」へ。なにせ、朝は時間勝負やから、うどんか丼が日課に。以前、吉野家の牛丼を3日間食べ続けて飽きてしまったことがあり、以来、焼き魚定食が定番になりました。この日も食べましたが、価格の割においしいと思いますよ。
昼食は賄いで太巻きを食べました。「祗園さゝ木」名物に具が十種類入った太巻きがあります。音楽家の加藤和彦さんが生前、来店される度に召しあがりおいしいと仰っていただきました。その太巻きは、節分の丸かぶりはできません。顎が外れそうなサイズだからです。それでも、お客さまから「節分に太巻きが食べたい」と所望され、今年はカットした太巻きと鯖寿司を用意して、節分当日に店頭でお渡しすることにしました。
この日の賄いは、太巻きの練習のため、イカや鮪の代わりに、ちくわと沢庵を入れました。夕食はこの日もお造り(平目、鮪、蛸)、そしてだし巻き。白飯は大好きですが、夕食には食べません。代わりに冷酒を少々、いや二合ほど。お店でお出しするものを試飲がてら、いろいろな銘柄をいただきます。
2月2日(日)
節分。この日、京都祇園界隈では、「おばけ」といって、大人の仮装遊びがあります。ぼくは仮装したことがないですが、芸妓さんが舞妓さんになったり、白いタイツをはいて白鳥の湖の衣装を着たりしてるのを見たことありますね。しっかりおひねりを要求されましたけれど。
昼食はお店で賄い。田中君作の鱧フライと芋のたいたんは、おいしかったです。この日は夕方から東京へ出張。大阪・関西万博で六甲バターQBBが出店する店のメニュー監修を担当します。植物性のチーズを使った串カツやオムレツなど、試食会と記者発表がありました。新幹線車内では、桑原君が鶏照り焼き、お造り、賄いの残りなどで作ったお弁当を、冷酒と一緒に。
2月3日(月)
東京のホテルに一泊。朝食はパン、スクランブルエッグ、ベーコン、コーヒー。昼食はなし。京都に戻り、夕食はお造り(鮪、白甘鯛)、ほうれん草のおひたし。冷酒も少々。
2月4日(火)
朝食は名神高速SAでうどん。昼食はナディアさん作の賄いで、鰤あらと大根の煮つけ、白飯。ナディアさんはオーストリア出身で、和食が大好きで日本の専門学校を卒業して、入社しました。彼女にはなるべく和食を作るようにと伝えています。そうしないと、うちにいる意味がないから。煮つけはおいしかったです。
夕食はお造り(平目、鮪、北寄貝)、昼食の残り、長女が差し入れてくれた百合根入り茶碗蒸し。子どものころから茶碗蒸しが大好きなんです。一週間振り返ると、ほぼ毎日お造り。そうすることで旬を感じ日々季節を味わっているんやと思います。荒牧先生、どうぞお手柔らかに!
【荒牧麻子先生のアドバイス】
佐々木浩さん店で働いている弟子は9名。順番に賄を作ってもらっていると紹介する佐々木さん。世界中からの客人をもてなすだけでなく、和食の真髄を学ぶ外国出身の料理人見習いにも技を伝授。
さて、最高位の格付けを得ている店の切り盛りは、傍で見ているのとはけた違いの緊張感が伴うようだ。せめて日常の食卓位はリラックスして接してもらいたいものだが、弟子の技術指導や文化としての日本料理のイノベーションを背負う重さは半端では無いのだろうと推察する。
それを弛めてくれるのはお嬢様方が拵えるおばんざいや幼い頃からの好物なのかもしれない。毎日お造りを頂くのは仕事でもあるが、白飯、醤油とくれば塩分、血圧、循環器疾患が気がかり。毎日柑橘類や果物を食べて対策するしか無いか。80点
(味覚のギャラリー主宰/献立評論家・管理栄養士)