予算10億円の「虐待判定AI」が導入見送りに…専門家が「子ども家庭庁に批判が殺到するのは当然」と断じる理由 「AI開発よりも児相職員の給料を上げた方がよほど虐待抑止につながる」
究極の二者択一
山脇さんの指摘を聞く限り、こども家庭庁は児相の現状への認識が甘いと言わざるを得ないだろう。それと同じように、今の子育て世帯や結婚を望む独身世代が何を求めているかについても理解が乏しいという。
「こども家庭庁は少子化対策のため婚姻数と出生数を増やす必要があります。実現するための最優先の課題は『教育費の異常な高騰』の対策でしょう。これを不安に思わない子育て世帯は皆無です。日本では以前から貧困層が生活の厳しさを訴えてきたわけですが、現在は中間層にも拡大しています。夫婦二人とも正社員であっても家計は楽ではありません。何しろ都内で新築マンションの平均価格は1億円を超えています。学費は小学校から大学まで全て国公立でも1000万円、そこに私立が加わると2000万円とか3000万円に跳ね上がります。若い夫婦は『家を買うか、子供を作るか』の二者択一を迫られていると言っても過言ではありません」
結婚は考えていても子供はいらないという若い世代からは、「子供はコスパが悪い」といった身も蓋もない言葉が飛び出す。子供がほしいと願っている層でも「結婚と出産は富裕層にしか許されない“贅沢”」との認識は根強い。
学習塾だけで数百万円
「高校授業料の無償化が政策として妥当かどうかには議論がありますが、そもそも無償化は子育て世帯や独身世代に何のインパクトも与えていません。そのため無償化だけでは少子化にストップはかからないでしょう。子供の教育を真剣に考える夫婦ほど公立不信の傾向が強くなります。中学受験のため塾に通い、私立の中高一貫校を経て大学に合格するには多額の学費が必要です。高校の無償化が決まったとしても、生活が楽になることはないのです」(同・山脇さん)
もし、こども家庭庁が本気で子育て世帯の教育費を減らしたいのなら、小学校から大学までの学費を考える必要がある。いや、学費以外の負担も大きい。何しろ中学受験のためには学習塾の費用だけで数百万円が必要だと言われるのだ。
「場合によっては大学の無償化も提案すべきでしょうし、その方が子育て世帯にインパクトを与えるのは事実です。子育て世帯が抱えている不安は非常に強いわけですが、東京都を筆頭に子育て支援に意欲的な地方自治体のほうが、よほど子育て中の父母が求める施策を打ち出しています。今のところ、こども家庭庁の存在感は希薄なので、批判が殺到してしまうのは当然だと言えます」(同・山脇さん)
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