「双子の赤字」に挑むトランプ政権の強硬手段が「米国経済の急減速」を招く理由 GDP推計値が「急変」、リストラ推進に金融市場は無反応

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国民の間に広がる不安

 トランプ氏が財政赤字を強硬な手段で解消しようとしていることも気がかりだ。

 米政府の債務は4年間で3割も増加し、過去最高を更新し続けた結果、現在は35兆ドルに達している。このことを問題視するトランプ氏は2月19日、「財政均衡化の実現は今年かもしれないし、来年かもしれない」と述べた。

 同月22日には、その実行役として期待しているイーロン・マスク氏に対し、もっと積極的に働くよう注文をつけた。さらに同月26日には、各省庁に不必要な契約の見直しと終了を指示するとともに、大規模解雇の実施方法を通達した。

 だが、国民の間に広がっているのは期待よりも不安だ。

 ロイターが2月20日に公表した世論調査によれば、回答者の58%が、公的年金や奨学金などの連邦政府の制度で給付に遅れが生じることを心配している。本人の意に沿わない連邦政府職員のリストラについても、62%が「支持しない」と回答した。

スタグフレーションの懸念が台頭

 筆者が注目しているのは、米国経済への影響だ。

 米国際開発局(USAID)廃止に伴う海外支援の停止だけでも、米国内の産業に4兆円分の損失を与えるとの試算がある(2月28日付日本経済新聞)。

 連邦政府職員の大量リストラがもたらすインパクトも大きい。トランプ政権の早期退職勧奨に7万5000人を超える職員が応じており、最終的には30万人に達すると言われている。しかし、雇用に与える影響はさらに大きいだろう。トランプ政権は政府契約や助成金の削減も進めており、連邦政府の契約労働者約520万人への影響も避けられないからだ。

 この点を考慮すれば、人員削減数は100万人に達する可能性があり、失業率が大幅上昇する可能性は排除できなくなっている(2月26日付Forbes日本版)。

 米国経済の好調さはバイデン政権時代の積極財政に支えられている面があり、これを一気になくしてしまえば、景気の推進力が大幅に弱まる可能性は十分にある。

 関税引き上げと政府支出の大幅削減が嫌気され、1970年代に米国を悩ませた低成長と高インフレ、いわゆるスタグフレーションの懸念が台頭している。

リセッションに陥れば金融危機の引き金に

 マスク氏によるリストラの取り組みに金融市場が反応しないのも気になるところだ。

 米国の長期金利(10年物国債利回り)は景気減速の警戒感から若干下がっているが、高止まりが続いており、再び上昇に転じるとの見方も根強い。借り入れコストの高止まりはバブル気味の米国の金融市場にストレスを与える。

 市場が警戒しているのは、商業用不動産向け融資(3兆ドル)やレバレッジドローン(低格付け企業向け融資、1.4兆ドル)、プライベートクレジット(ヘッジファンドなどが行う未公開企業などへの融資、1.6兆ドル)などだ。

 今後、デフォルト(債務不履行)が多発し、米国経済が景気後退(リセッション)に陥った場合、金融危機の引き金になるとの憶測も流れている。

 このように、トランプ氏が強引に進める双子の赤字の解消は「百害あって一利なし」だ。米国経済が急減速する事態に備えておくべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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