“古民家カフェ”をオープンして憧れの“スローライフ”…“移住”を夢見る人々に経験者が語る「東京の人が地方に住み続けられない」最大の理由

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「移住」という言葉にみる東京の優越感

 私は2020年11月に佐賀県唐津市に移住した。この土地で編集やライターの仕事があるかと思ったら甘くなかった……。地元の西日本新聞からの単発の執筆依頼、佐賀県庁からの情報発信業務、佐賀新聞の連載、年に1回ある講演といった仕事は得られたが、収入の98%は東京発である。

 古民家カフェを営業できたりする人は常人離れしたコミュ力と行動力と各種制度を把握する能力がある高スペック人材である。だが、多くの移住者は私も含め、そんなことはできない。だからやたらと「移住=素晴らしい人生」を煽ってほしくないのだ。

 私だって移住者が元いた場所に戻っていく様はこの4年以上、何度も見てきた。結局移住者は「ヨソ者」なのである。人口20万人ほどを擁するコンパクトシティの県庁所在地であれば快適だろうが、それ以下であれば、地元に馴染むのはなかなか難しいもの。そして、地元に根付いた人は地元から離れない。地縁も仕事もその地で完結しているからである。

 そして、ここで「移住」という言葉について考えてみる。ここには「東京者による優越感」を感じる。というのも「東京に移住しました!」という言葉は聞かないからだ。一方、「福岡に移住」はある。東京の場合は「拠点を移した」「東京に引っ越した」になる。「移住」は人口が少ない場所への引っ越しの意味であり、「都落ち」のニュアンスも含んでいると言えよう。

東京がダントツ1位

 昨今の日本の地方都市の衰退から、「地方への引っ越し」をネガティブなイメージにさせぬため、「移住」という言葉をキラキラワード化したのである。だからこそ、キラキラした移住者を紹介する「人生の楽園」(テレビ朝日系)という番組が高視聴率を獲得するのだ。

 この番組を見て移住を決意する人も時にいるだろうが、移住はそこまで甘くない。金銭面で不安のない高齢者でも友達ができないことに悩む人もいて、結局元の土地に戻る例は多い。若者の場合は、仕事すら見つからず戻らざるを得ない。

 そう考えると冒頭で紹介した「移住希望地ランキング」で言えば、本当は東京がダントツで1位なのだ。いい加減、NPO法人もメディアも「移住」という言葉に夢を加味しないでもらいたい。本当は東京・名古屋・大阪・福岡・札幌という都会が多くの人にとっては住みやすいのだ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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