「出自で差別したり、排除したりしない」 ドラマ「ホットスポット」の土台にある“女たちのフラットさ”
みんな大好き富士山を背景に、極めてのんきなSFが展開中。「ホットスポット」は今期で最も気張らずに観られる作品だ。ヒロインの命を救ってくれた男が実は宇宙人、と聞けばロマンスの始まり……と思いきや。始まらないどころか、地球の女たちは案外冷ややか。彼を英雄視することもなく、敬意を払うでも取り入るでもない。彼の特殊な能力をさまつな困り事でちょいと使いながらも、基本は塩対応。通常運転の日常が坦々と進んでいく。
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主人公・清美を演じるのは市川実日子。湖畔のホテルに勤務し、時に夜勤もこなすシングルマザーだ。で、同僚の高橋が命の恩人で宇宙人。東京03の角田晃広が演じるのだが、なんつうか、ありがたみのない宇宙人というか、宇宙人っぽくないというか、どこにでもいそうな普通の中年男性だ。超速走行や超絶跳躍力、嗅覚や聴覚の超拡張が可能で、「すごい」ことは分かる。分かるし、基本的に良い人なのだが、話は長いし、しかもちょっと盛るし、やや恩着せがましいところもある。
清美の幼なじみたち、看護師のみなぷー(平岩紙)、小学校教師のはっち(鈴木杏)は、高橋を特別扱いしないし、さほど興味がない。車の脱輪や自転車の盗難など、いろいろと高橋の尽力によって助けられたあやにゃん(木南晴夏)は、高橋が宇宙人であることをすんなり受けとめる。逆に宇宙人説を信じていないのが、清美の同僚・由美(夏帆)。幼なじみの瑞稀(志田未来)に、あっさりバラしてネタにする。
宇宙人であることを何か特別と思っているのは高橋だけ。女たちは超越した能力に感心はするものの、あがめ奉るわけではない。この温度差がおかしいのだが、ある意味で平和の象徴とも。出自で差別したり、白眼視して排除したり、壁を作ったりしない。女たちのしょっぱさとフラットさがこの物語の土台となっている。
ま、集結した女優陣のそっけない日常会話劇が秀逸なおかげもある。どうでもいい話なのに、例えと飛躍と着地点が面白過ぎて、つい聞き入っちゃう。他にも、ちゃっかり系同僚役の坂井真紀、幼なじみでスナックママ役のMEGUMI、手癖は悪いがダイヤモンドのメンタルをもつ元同僚役の野呂佳代、スーパーレジ打ち役の中島ひろ子、清美が住む富士浅田市の市長役の菊地凛子……キャスティングのセンスが光りまくり。
この平穏な世界の均衡を崩しかねないのが、取材に来た日テレのディレクターら(池松壮亮・前田旺志郎)だ。「月曜から夜ふかし」のネタを探すうちに、宇宙人説に興味を持つ。テレビマンの嗅覚と貪欲さが今後ひと悶着を起こしそうな気配。
また、清美の勤めるホテルに長逗留している初老の男(小日向文世)の正体も気になるところだ。霊峰富士の麓に来た宇宙人は、高橋だけではない気もする。星をまたぐインバウンドもありかな、と思ったりもして。
つうか正直、宇宙人とかどうでもよくて、堅実なミドルエイジの女たちが楽しく穏やかに過ごしている様をドラマで観たかったから、気に入ってるの、この作品。