ワイドショーに追われてリヤカーで撮影所を脱出…「火野正平」を時代劇で輝かせた“自由自在”の芸風

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時代劇に電気ドリル

 1970年代は他にも大御所が主役の話題作に出演。

 勝新太郎の「痛快!河内山宗俊」(フジテレビ・75年)では、巾着切りなどの悪事を重ねる小悪党・暗闇の丑松を演じた。第5話「親孝行なさけのかけ橋」では、丑松が立派な侍になったと誤解した田舎の母親が江戸にやってくることになり、宗俊ら悪仲間が一日限りの大芝居を打つ。「おめえの周りは、みんなええ人ばかりじゃ」「人様に嫌われねえように」と言う老母(小峰千代子)に抱き着く丑松。眉毛をハの字にした火野正平の憂い顔、甘えっぷりに泣かされる。

 この他にも、萬屋錦之介・主演「長崎犯科帳」(日本テレビ・75年)、藤田まこと・主演「新・必殺仕置人」(朝日放送・77年)と名作への出演が続く。「新・必殺仕置人」第30話「夢想無用」では、念仏の鉄(山崎努)らの情報係をしていた正八(火野)が所帯を持とうと約束した娘が殺され、初めて人殺しをする。これもシリーズ屈指の泣かせる話だ。

 個人的には、里見浩太朗・主演の「長七郎江戸日記」(日テレ・83~91年)のお調子者の辰三郎や、三田村邦彦と西岡徳馬が世直し旅をする「殿さま風来坊隠れ旅」(テレビ朝日・94年)でエレキテルを駆使して電気ドリルを使う平賀源内(そんな無茶な!)、役所広司が演じる切れ者同心・狩谷新八郎に自分の妹(渡辺梓)が惚れていると知って困惑する「八丁堀捕物ばなし」(フジ・93~96年)の定町廻り同心・杉山虎之助も忘れがたい。

「名付け親の原作だから」

「撮影時間ギリギリまで来ない」「羽二重(カツラの下につける下地布)をつけない」など、スタッフにはいろんなことを言われつつ、その自由さが愛された人だった。

 幾度かインタビューをお願いしていたがなかなかかなわず、やっと話を聞けたのは、昨年、放送が開始された八代目松本幸四郎・主演「鬼平犯科帳」(時代劇専門チャンネル)の現場だった。役柄は荒れた日々を送っていた若き日の鬼平の長年の仲間で密偵の彦十だ。

 いつものように愛犬とともに撮影所に到着。「役作りってそんなにしないけど、名付け親(池波正太郎)の原作だから気を抜くわけにはいかない。でも、俺はメイク早いよ。カツラ、要らないから」「クランクイン前にレギュラーメンバーで集まってリハーサルと殺陣稽古をやって、ごはん食べに行ったり、みんなそれを“合宿”と呼んでる。こういう作り方をするドラマってあまりないから、またいつでも合宿したいですよ」

 レギュラー出演者の中では最年長だが、世代関係なく現場にすっと馴染んでいるのはさすがだ。2月に初放送された最新作「鬼平犯科帳 老盗の夢」でも、彦十は鬼平のよき飲み仲間であり、相談相手だった。

 熱すぎず、重すぎず、どこか少年のいたずら心を感じさせる絶妙な存在感は、最後まで変わることはなかった。

デイリー新潮編集部

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