60歳男性が「うつ」になるほど後悔している「かつて捨てた恋人」の秘密と遅すぎた再会

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乃理子さんに非常な対応を…

 話はトントン拍子に進んでいった。未来に希望がもてたことで、好弘さんは有頂天になっていた。ある日、乃理子さんに「ここを越すから、乃理子も出ていって」と伝えた。ごめん、オレ、人生を変えるんだと。

「どういうことなのとすがりついてくる乃理子に、希望の光が射してきたんだ、だから別々の人生を歩もうと軽く言ってしまった。乃理子はわけがわからないという顔をしていました。大事にしていた虎の子の100万円を乃理子に渡して、『これしかないけど』と言ったら、彼女は僕の顔をまじまじと見ていた。翌日遅くに帰宅したら、部屋はもぬけの殻でした。家電もかなり持っていかれていたけど、気にはならなかった。今思えば、ひどいことをしたと思っています」

自分のことしか考えていなかった

 自分のことしか考えていなかったと彼はつぶやいた。だが、彼もまた生きることに必死だったのだ。その後、すぐに彼は社長宅から歩いて数分のマンションに越した。そして梓さんと婚姻届を提出。会社を挙げてみんな喜んでくれたという。

「会社のために社長のためにがんばろうと思いました。38歳のとき、母が亡くなった翌月に息子が生まれました。母は孫を楽しみにしていたから、見せてあげられなかったのは残念だったけど」

 母には内緒にしていたが、彼は社長の養子に入っていた。正直言って、母も長生きしていたらバレただろうから、あの時点で亡くなってよかったのかもしれないと彼は言った。

「それからは平和で楽しい生活が続きました。仕事は大変だったけど、みんなと一緒にがんばって、みんなと一緒に一喜一憂することがうれしかった。50歳直前で社長を継ぎました。僕が継いでからは、さらに仕事を広げて従業員を増やすこともできた」

突然の訪問者が明かした事実

 4年前のことだ。好弘さんと同世代の女性が会社を訪ねてきた。深刻な様子にただならぬものを感じたため、近くの喫茶店で話を聞くことにした。

「僕が追い出した乃理子の友人でした。乃理子が病気で余命いくばくもないのだが、会ってやってもらえないかという話だった。『乃理子はずっとあなたのことを思いながら生きてきた。あなたと別れたとき、乃理子が妊娠していたことも知らなかったでしょう』と言われて、頭をいきなり殴られたような衝撃を受けました。言葉も出なかった。彼女が言うには、生まれた子は半年もたたないうちに突然死したそうです。それからの乃理子は見ていられなかった、と。いつか子どもと一緒にあなたに会いにいくつもりでいたんですよと言われました。『子どもと一緒に会いにいったら、あの人は冷たくはしないはず。だってもともとは優しい人だもの』と言っていたって……」

 好弘さんはうつむいて、何かに耐えるように動かない。テーブルの上で握った拳が震えているようにも見えた。

「それなのに僕は乃理子に会いに行かなかった。来てくれた彼女には、近いうち連絡する、会いに行くと言ったのに……。怖かったんですよ、乃理子に会うのが」

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