トランプ大統領の右腕「イーロン・マスク氏」は“インドネシア”への巨額投資を実現できるか…米中対立のなか「世界一のビジネスマン」の決断は

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テスラとスターリンク進出でGDPは最大1.5ポイント上昇

 イーロン・マスク氏は、トランプ大統領の片腕として国家予算の削減に大鉈を振るう一方、電気自動車(EV)業界を牽引するテスラのオーナー、宇宙開発企業スペースXを率いる実業家として、米国のみならず世界の産業界や国際情勢に大きな影響を及ぼしている。そんなマスク氏の動向を巡って、注目を集めている国がある。それはインドネシアだ。マスク氏によるEV(電気自動車)のバッテリー生産拠点の構築と、スペースXの衛星通信サービス「スターリンク」の導入が実現するか否か――。インドネシアの国家運営にも影響を及ぼしかねない大規模プロジェクトの行方に、多くの国々が関心を寄せている。【赤井俊文/「じゃかるた新聞」編集長】※本稿は「じゃかるた新聞」(2025年1月22、23日)の特集記事を再編集したものです。

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 米国地質調査所(USGS)の報告によれば、インドネシアのニッケル埋蔵量は約5500万トンに達し、世界シェアの25%を占める。ニッケルはEVバッテリーに欠かせない金属であり、インドネシアのプラボウォ政権は採掘、製錬からバッテリー製造、EVの最終組立までを国内で完結させることで、ASEAN域内のみならず世界のEV市場で存在感を高めることを狙っている。

 テスラにとっても、インドネシアはEVバッテリーの原材料を安定的に確保するうえで魅力的な投資先だ。2022年にはジョコ・ウィドド大統領(当時)が米国のスペースX本社を訪れ、数十億ドル規模とされる大型投資の協議を行った。仮にこの交渉がまとまり、採掘からバッテリー工場、EV組立工場まで垂直統合が実現すれば、インドネシア国内の雇用が10万人規模に増え、GDP成長率は年1ポイント近く上振れするとの試算もある。

「タイでも昨年、中国のEVメーカーBYDが工場開設とともにEVの大幅値下げに踏み切り、消費者団体から抗議を受けるまでになった。中国勢のシェア拡大の流れに乗って、マスク氏がテスラをインドネシアでさらに売り込みたいと考えてもおかしくない」(日系自動車メーカー幹部)

 マスク氏率いるスペースXの衛星通信サービス「スターリンク」への期待値も高い。インドネシアは約1万7000もの島々からなり、地方や離島部では通信インフラの未整備による「デジタルギャップ」が深刻な社会問題となってきた。

 スターリンクは低軌道衛星を大量に打ち上げることで、地上局への依存を最小化しながら高速通信を提供できるのが特長だ。離島や山岳地帯など、従来の光ファイバー敷設が難しい地域でも通信環境を整備しやすい。インドネシア政府の試算によれば、離島部のインターネット普及率が現行の50%から80%に高まるだけで、GDP成長率を0.3~0.5ポイント押し上げる効果があるという。インドネシアがデジタル経済への移行を加速するうえで、スターリンクは「革命的存在」となり得るのだ。

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