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並外れた精神力

 そんなホー氏が映像業界にカムバックしたのは2012年。知人の依頼で映画のプロデューサーを務めることになった。しかし、8月にその監督が突然失踪。

「ロケ地を決め、スタッフを集め、政府の補助金を申請し、あとは撮影するだけ、というタイミングでした。私は32歳。結婚しており、3歳の息子もいました。 翌年には学校に入れなければならない状況で、途方に暮れました。しかし、それならば自分で監督をしようと決意し、3日間こもって書き上げたのが『メカバース』でした」

 こうして、ホー監督はどんな困難にも屈しない強い意志を育んだ。鍛え上げられた肉体と同様に、その精神力も並外れていた。

「失踪した監督は怖気づいてしまったんです。最終的にはSNSのメッセージで『ごめん、できない』と連絡がありました。私は彼のようにはならない。何があっても希望を持ち、最後まで成し遂げると決意しました」

 2013年から撮影を開始したが、当初の6年間は資金集めにも苦労し、日々の生活もままならなかった。

「大学でマーケティングを学んだことが映画製作に役立ちました。R&D(研究開発)にはかなりの時間を費やしました。2013年にはエヌビディアやソニーが協力してくれましたが、内情は厳しく、貯金が40ドルしかなかった時もありました。ただ、ピンチの時には次の仕事が入ったり、友人がサーモンや豚肉を持ってきてくれたりして、なんとか凌ぎました。息子は、父親がよく家にいると思っていたようですが、貧乏だとは気付いていなかったそうです(笑)」

 撮影は、資金が許す範囲で少しずつ撮影するスタイルで進め、トータルで7年かかった。2016年には大口の出資が決まり、翌2017年にはニュージーランドロケも実現。シンガポールロケでは、セットを分解し組み立て直すなど節約を図ったが、総製作費は1200万ドル(約18億円)にのぼる。

 VFXシーンは、GPU(Graphics Processing Unit=画像演算装置)テクノロジーの進化が大きな助けとなった。

「義弟がゲーム好きで、私がゲーム映像のクオリティに驚いていたら、『GPUがすごいんだ』と教えてくれました。当時、GPUは主にゲーム分野で活用されていましたが、その技術は急速に進化していました。ちょうどゲーム以外にも応用される流れが生まれており、オーストラリア政府から40%の補助金が出ることになり、オーストラリアのVFX会社がアプローチしてくれました」

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