高校野球「7回制導入」は“結論ありき”? 指導者が「高野連は、現場の声を吸い上げてくれない」と強い不満が出る一方、「理解」を示す声もある理由

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 延長タイブレーク、投手の球数制限など近年多くのルール変更が行われている高校野球。昨年夏の甲子園では日中の時間帯を避けて試合を行う二部制が試験的に導入され、今年も継続されることが発表された。そしてそれ以上に大きな波紋を呼んでいるのが「7イニング制導入」の検討についてだ。【西尾典文/野球ライター】

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高校野球にも7イニング制が波及?

 昨年、日本高野連(高等学校野球連盟)は「7イニング制等高校野球の諸課題検討会議」を新設。その中で7イニング導入に対するメリット、デメリットなどを話し合い、今年12月までには方向性を示すと言われている。そして、2月21日には、今秋に行われる国民スポーツ大会では7イニング制を導入することが発表された。

 日本高野連はこの決定について

<国民スポーツ大会は決められた日程(4日間・順延なし)で開催する大会であり、投手の障害予防対策として3連戦を回避するため、休養日を設定する必要がある>

<1球場で開催する場合、第1日は4試合の開催が必須となり、天候不良が重なった場合、予定の試合をすべて行い、優勝校を決することができない場合がある>

<それに加えて、秋季大会と重なっている都道府県があり、イニング数を短くしたうえで勝敗を決し、部員の健康面への配慮をする>

 と説明している。

 高校野球の関係者の間では、この流れが春、夏の甲子園大会や、地方大会にも広がっていく可能性が高いのではないかという声が多い。

 では、7イニング制の導入について、現場はどう考えているのか。今年に入ってから10人以上の指導者、関係者に導入の賛否について聞いたが、諸手を挙げて賛成する意見は、誰からも聞かれなかった。

選手の健康面のほか、運営サイドの負担も変更の理由に?

 7イニング制導入のデメリットとして、最も多く聞かれたのが選手のプレー機会の減少である。甲子園出場経験を持つ関東地方の指導者はこう話す。

「9イニングから7イニングになる、と単純計算で試合の約2割が減ることになります。打者であれば、1人あたり4打席あったのが3打席以下になり、下位打線の選手は2打席しか回ってこないケースも出てくると思います。選手交代の機会も当然減りますよね。練習試合で多く機会を与えれば良いというのももちろんありますが、公式戦の緊迫した場面での経験とはやはり異なります。また8回、9回の攻防は、確かに体力や精神的にも厳しくなることが多いです。ただ、苦しい場面を乗り越えた経験が成長に繋がる面も確かにあります。特に、高校生は大きく伸びる時期。その成長の機会が減ってしまうデメリットは大きいと思います」

 他にも7イニング制になることで、メンバーを固定化して戦う傾向が強くなること、先制点や1点の重みがより大きくなり、機動力やバントなどを重視する「スモールベースボール」に偏り過ぎてしまうことなどを懸念する声が聞かれた。ただ、やはり最も大きな懸念は100年以上も続いてきた野球のベースを変えることに対する違和感が多かった。

 一方で、「7イニング制導入は致し方ない」という声もあった。それは選手の健康面というより、「運営方法に対する意見」だった。

「甲子園も地方大会もそうですが、選手や指導者だけではなく、運営サイドの負担が大きい面があります。1日で3試合、4試合を運営しようと思ったら相当な拘束時間になりますし、夏の大会などはそれが何日も続くことも珍しくありません。運営している各県の高野連は基本的に教員の集まりですから、“本業”ではない負担が大きくなっています。7イニングにすることで、時間的な拘束が減るということはあると思いますね。高校野球に関わる教員は、自ら望んでいるケースが多かったですが、それに頼ってきたツケが出ている。若い教員の中には野球経験者でも、“本業”ではない負担が大きいから部活には積極的に関わりたくないという人が増えています。こうした状況を考えると、運営方法の見直しは必要だと思います」(東海地方の高校野球指導者)

 中学校では部活動自体を廃止する動きが増えてきており、教員の負担を減らす流れは大きくなっている。そんな中で教員の“やりがい”に頼った運営を続けていくことには無理がある。

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