米国で3兆円の資金流出、バフェットも距離を置き…日本で聖域視される「ESG投資」の驚くべき現実
バフェット氏も距離を置き……
ESGを主導していたゲンスラー氏が退任したSECは2月、米上場企業の株主総会に諮る株主議案の取り扱いを巡る指針を改定した。
ゲンスラー委員長時代には「広範な社会的な影響が見込まれる株主提案は、総会に諮る議案からの除外を認めない」と規定したことで、ESG推進を掲げる株主から、上場企業に気候変動対策や人材多様性を求める議案が殺到する事態となっていた。
それが一転、今回のSEC指針では、総会に諮る議案はその企業の売上高や純利益の5%以上に影響する株主提案に限定するとした。事業面への影響が小さな気候変動対策などの株主提案は今後、議案として取り扱われなくなる。
これもトランプ政権による「ESG攻撃」の一環と言えるが、その背景にはESG投資を掲げる金融業界が顧客の資産を預かって運用し、顧客の利益を最大化するという受託者責任を果たして来なかったという現実もある。
ESGの奔流は、新型コロナウイルス禍が世界的に広がる中で、企業の社会的責任やガバナンスの重要性が改めて浮き彫りとなったことで急激に高まった。しかしながら化石燃料の廃絶を求めるESGに対し、実際に大きな利益を稼ぎ出したのは石油や天然ガスなどの化石燃料の権利を保有するエネルギー業界だった。
「投資の神様」と呼ばれる著名投資家のウォーレン・バフェット氏が、金融市場で渦巻くESGの動きと一線を画してきたのは有名な話だ。投資業界で長年、生き抜いてきたバフェット氏が直近で投資対象とした日本企業は、海外と石油や液化天然ガス(LNG)などを取引する大手商社である。その老師は先日、大手商社への追加投資を表明した。
ESGを聖域視する日本
米調査会社のモーニングスターによると昨年、米国のESGファンドからの資金流出額は約200億ドル(約3兆円)に達し、2023年の流出額に比べて3倍近く急増した。こうした反ESGの流れは欧州の金融機関にも広がっており、世界の金融市場で一大ブームとなったESG投資は大きな転換期を迎えている。
それでも日本の金融業界では「日本のESG投資は欧米に比べて遅れている」などと今もESGを聖域視する関係者がほとんどだ。金融庁も温室効果ガスの排出削減などのサステナビリティ情報開示を上場企業に対し、段階的に義務づける方向で準備を急いでいる。
日本政府は「資産運用立国」を掲げて国民に積極的な投資を呼びかけているが、ESGを巡る世界の資金の動きを冷静に見極める姿勢が欠かせない。
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