米国で3兆円の資金流出、バフェットも距離を置き…日本で聖域視される「ESG投資」の驚くべき現実

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「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」。これらの“非財務情報”をもとに企業への投資を行う「ESG投資」が、大きな転換点を迎えている。日本では今なお聖域視されている節があるが、実はアメリカでは数兆円規模の資金流出が続き、主要な金融機関は軒並み撤退している状況なのだ。トランプ大統領の就任によってこの傾向は一層加速していくことが予想される中、我が国の「ESG信仰」に行き過ぎたところはないだろうか。経済ジャーナリストの井伊重之氏が警鐘を鳴らす。

米国で強まる「ESG投資」への逆風

 先進国の金融市場を席巻してきたESG投資に逆風が吹き荒れている。

 今年1月にトランプ氏が米大統領に就任したのに伴い、米金融業界のESG投資を主導してきた米証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長が任期半ばで退任を迫られ、SECは方針転換を余儀なくされた。

 また、共和党が州議会で多数派を占める全米10州は昨年11月、投資先の企業にESGを要求してきたブラックロックなど大手3社の資産運用会社を反トラスト法違反で提訴し、金融業界を震え上がらせた。

 ESGを投資方針に掲げてサステナブルファンドを運営する資産運用会社や大手銀行はこれまで、「物言う株主」として投資先に対し、環境や人材の多様性確保などを要求してきた。

 だが、共和党陣営はそうしたESGの投資方針は「政治的に偏向している」と見なし、受託者責任を負うべき資産運用に持ち込むべきではないと主張。その急先鋒のトランプ氏は、就任初日に温暖化防止の世界的な枠組み「パリ協定」からの離脱を決めた。

 2月には「環境に大きな影響を与えていない」として紙ストロー廃止を表明。連邦施設内での紙ストローの使用を禁じ、プラスチックストローの復活を命じる大統領令に署名した。そして紙ストローに代表されるESGを推進する金融業界への攻勢を強めている。

米金融機関の「ESG撤退」が相次ぐ

 資産運用額が総額10兆ドルを超える世界最大の資産運用会社として知られるブラックロックは今年初め、恒例の顧客向け年頭書簡の中で、脱炭素を掲げる国際金融連合「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ(NZAM)」から離脱したことを明らかにした。

 ESG投資を進める300社超の大手銀行や資産運用会社が加盟するこの金融連合は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロに抑えるため、気候変動対策の国際的な金融支援の枠組みを定めるなど、世界のESGブームを牽引してきた。

 しかし、米国でトランプ旋風が渦巻く中、ESGの象徴的な存在だったブラックロックへの風当たりが急速に強まり、NZAMからの離脱に追い込まれた。これと前後してゴールドマン・サックスやシティグループ、バンク・オブ・アメリカなど米国の主要銀行も一斉にNZAMから抜ける方針を打ち出し、金融連合は活動停止に陥った。

 金融業界関係者は「トランプ氏が大統領選挙に勝利した後、米国では共和党が主導する各州で反ESGが強まっている。もはや米国でESGを表立って掲げる金融機関は姿を消した」と語る。

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