松坂桃李「御上先生」があぶり出す… 現在の社会と教育現場に足りない「生身」の関係性

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いま必要な交流が描かれている

 こういう交流が可能になれば日本の教育現場が、ひいては社会が、もう少し真っ当になるのではないでしょうか。松坂桃李が主演するTBS系の日曜劇場『御上先生』を視聴しながら、そんな思いをいだいています。

 このドラマでは、松坂扮する東大卒の文科官僚である御上孝が、新設の官僚派遣制度により、数学の教師として学校に送り込まれます。舞台は御上の出向先である隣徳学院という私立の中高一貫校です。番組のホームページには「文科省の“官僚”兼“教師”が権力に侵された日本教育をぶっ壊す!?」「令和の18歳と共に日本教育に蔓延る腐った権力へ立ち向かう大逆転教育再生ストーリー!」などと書かれています。

 ドラマにはさまざまな伏線が織り込まれていますが、それらがどうからみ合って「大逆転」へとつながるのでしょうか。第6話「御上」(2月23日放送)が終わった時点では、だんだん見えてきてはいますが、まだ見通せません。でも、結論はどうなるにせよ、御上先生が担任を務める高校3年2組では、だいぶ前から日本で失われはじめ、いまではかなり喪失してしまったものが再生しているように見えます。

 ケチをつけようと思えば、つけられる箇所はたくさんあります。隣徳学院は東大進学率が県下トップの進学校で、私立の中高一貫校だから、親の所得水準もそれなりに高いはずです。それにしては問題をかかえている生徒が多すぎます。

 第6話で明らかになりましたが、御上先生も大きな問題を抱えていました。3つ上の兄で放送部に所属していた宏太(新原泰佑)は高3のとき、発達障害がある中等部の生徒を高等部に進学させなかった学校に、全校放送で抗議したのち、みずから命を絶っていました。その過去が週刊誌に大きく掲載されてしまうのですが、無名の官僚の家族にまつわる過去の逸話について、週刊誌が記事にするとは思えません。そんなことをすれば重大な人権侵害になります。

 しかし、そのあたりは不問に付すことにしましょう。3年2組という小さな社会をとおして、さまざまな問題を浮上させ、再生へとつなげるためには、小さな社会に問題を集中させるための強引な仕掛けが必要だからです。

学校のクラスもその周囲も問題のるつぼ

 では、3年2組の生徒はどんな問題をかかえているのでしょうか。報道部の神崎拓斗(奥平大兼)は、女性教師の不倫を暴露する記事を校内新聞に載せて、その教師を退職に追い込み、挙句、その元教師の娘による国家公務員試験会場での刺殺事件を誘発。自分の行為が他者の人生を変えることになってしまった責任を感じています。しかし、そもそも行動の背後には、エリート新聞記者である父親への複雑な感情がありました。

 東雲温(上坂樹里)は中学校の国語教師だった父が、退職に追い込まれていました。文科省の検定教科書を使わずに独自の教材をもちいて授業を行っていたことが、学習指導要領違反に問われたとのことで、それが原因で両親は離婚しています。

 椎葉春乃(吉柳咲良)は幼少期に両親を亡くし、和菓子屋を営む祖父母に育てられていましたが、祖父は認知症になり、祖母は倒れてしまい、アルバイトをしながら祖父の介護をしていました。このため、生理用品すら買えない「生理の貧困」の問題が起きていました。

 生徒たちだけではありません。御上先生がかかえる問題はすでに記したとおりですが、彼らの周囲は、じつに問題のるつぼです。

 神崎が校内新聞で不倫を奉じて退職に追い込んだ冴島悠子(常盤貴子)は、夫に家を追い出され、母がいなくなった家で、娘の真山弓弦(堀田真由)は父親になじられ続けます。挙句、先述した刺殺事件を起こしますが、じつは被害者の渋谷友介(沢村玲)も父親から虐待を受け、そのため母親と2人で逃げ暮らしていました。だから、渋谷の母親は加害者の堀田真由がとった行動について、「どうしてあなたがあんなことをしてしまったのか、わかった気がしてしまった」と語ります。

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