1通1万円「ラブレター代筆屋」のお仕事 コツは「相手との距離感をよく考えること」

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「代筆屋」始めたきっかけは

 SNSには毎日のように書き込むけれど、最後に手紙を書いたのはいつだったか、思い出せない。

 そんな現代にあって、川崎市に住む小林慎太郎氏(46)は、ラブレターの代筆屋を約10年間続けている。これまで書いてきた数は約250通。代金は1件1万円なので、もちろん本業ではない。なぜ、この仕事をしているのだろうか。ご本人が語る。

「私には小学生の頃から相手に何かを伝える際に手紙を渡す習慣があったのです。もちろん女性に告白するときもそうでした」

 大学を卒業してスマホのアプリなどを開発するIT企業に就職。同じ職場にいた現在の妻に交際を申し込んだのも手紙だった。順調な生活だったが、このまま会社に身を置きながら人生が過ぎてゆくのだろうか。そんな思いが頭をよぎった時、手紙が得意なことを思い出す。

「それが代筆屋をやってみようと思ったきっかけです。最初は、新宿の街頭に立ってチラシを配ったのですが、変な人に見えたのでしょう。一件も依頼が無かった。そこでホームページを立ち上げると、ポツポツと連絡が届くようになりました」

注文は男性が6割

 最初は3000~5000円だったが、じきに値上げに踏み切る。代筆は手間がかかるのだ。依頼者へのヒアリングから始まって、文面の作成、確認・修正、納品と進むが、書くのに3~4時間かける。時にはラブレター以外の依頼も。

「多いのは謝罪や復縁です。たまにですが、ビジネス文書のような仕事も来ます」

 注文が多くなるのは、やはりバレンタインデーやホワイトデーの前。男性6割、女性が4割ほどだ。が、最近は受注を控えている。

「2年ほど前、テレビ番組に取り上げてもらったところ、何十件という依頼が殺到してしまったのです。文案を考えたりヒアリングする手間からすると、これは無理。値上げも考えましたが、そこまでしてお金をもらうのもどうかな、と思って」

 加えて最近は短歌の創作に割く時間が増え、「小林静」の名で200首を収めた短歌集も出している。最後に、ラブレターを書くコツを教えてもらった。

「字数は1000字もあれば十分です。大事なのは相手との距離感。どのぐらいの付き合いなのか、よく考えてみること。間違えると引かれてしまいますから。なにより書き出してみることです」

 そこで、小林氏の短歌集から一句。

〈九割が伝え方だとするのなら残り一割こそが吾が使命〉。代筆屋の気概が伝わってきた。

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