実はいま、1歩も地面を踏まずに“渋谷”が1周できます…100年に1度の再開発で生まれた「巨大空中回廊」を歩いてみた
現在、渋谷は2027年まで続くと言われる「100年に一度」の再開発が進められている。昨年7月には、渋谷駅東口エリアに大型複合施設「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」が、桜丘エリアに大型複合施設「渋谷サクラステージ(Shibuya Sakura Stage)」が開業した。渋谷駅はアメーバのように形を変え、四方に触手を伸ばすように延伸している。渋谷駅構内を歩いてみると、そこには思わぬ発見が――。【我妻弘崇/フリーライター】
(前後編の前編)
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【写真を見る】渋谷は“谷の街” よく見ると「ヒカリエ」と「スクスク」の連絡口にも傾斜が
アクシュの1Fはヒカリエの2F
まるで空中回廊だ。
現在の渋谷は青山通り、渋谷クロスタワー方面にある「渋谷アクシュ」から「渋谷ヒカリエ」を抜け、駅と直結する「渋谷スクランブルスクエア」を介し、明治通り沿いにある「渋谷ストリーム」まで。さらには、桜丘方面にある「渋谷サクラステージ」、中央街に位置する「渋谷フクラス」、そして道玄坂の「渋谷マークシティ」にもアクセスできるようになった。これらは歩道橋でつながっているため、一度も地上に降りることなく周遊することができる。渋谷と言えば、スクランブル交差点をイメージする人は多いだろうが、その注意を上に向けると、超巨大空中回廊が広がっているのだ。
この空中回廊、歩いてみると意外と面白い。例えば、「渋谷アクシュ」の1Fから「渋谷ヒカリエ」へ抜けると、階段もエスカレーターも使っていないのに、階層の表示が2Fに変わっている。これは渋谷が「谷」であることを物語り、スクランブル交差点が谷底であることを示す、分かりやすい好例だろう。東西に宮益坂と道玄坂があるように、外側に行けば行くほど海抜は高くなるため、「渋谷ヒカリエ」の2Fは、より高いところにある「渋谷アクシュ」では1Fになってしまうというわけだ。
地下に広がる巨大な雨水貯留施設
裏を返せば、谷である渋谷は新宿駅や東京駅のように、地下に広がるような大規模な商業施設を作ることは適さないということだ。スクランブル交差点付近では地下1Fでも、道玄坂の中腹まで行けば、いつの間にか地下3Fを歩いていることになるからだ。
駅を中心に、「渋谷アクシュ」~「渋谷ヒカリエ」~「渋谷スクランブルスクエア」~「渋谷ストリーム」~「渋谷サクラステージ」~「渋谷フクラス」~「渋谷マークシティ」と広がる空中回廊は、渋谷という地形が生み出した新しい珍百景と言っていいだろう。
では、どうしてこのような構造になっているのか――についてだが、災害対策という側面を持つ。災害時は、人々が一か所に集中することを避けなければいけない。人の流れを建物から建物へとつなぐように分散させるために、渋谷駅周辺の複合施設は互いにつながっている。
実際、渋谷は開発と並行する形で、災害対策にも力を入れている。渋谷の地下に広がる雨水貯留施設は、2011年2月の工事着手から10年近い歳月を経て、2020年8月に完了した。また、「渋谷ヒカリエ」は、災害時に発生する帰宅困難者を一時的に収容できる約5500平方メートルのスペースを確保する商業施設でもある。
新南口付近には、「災害に強い安全なまちへ」と題して、渋谷駅の開発背景を紹介するパネルも設置されているのだが、道行く人は恐ろしいほど見向きもしない。なかなか面白い情報だと思うので、通る機会がある際は、ぜひ着目してほしい。
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