「映画はとにかく引き算だ」…“40歳でこの世を去った名優”が「石橋凌」に役者魂を叩き込んだ奥深い言葉

  • ブックマーク

足を10センチ切っている?

「おまえが8歩、歩くところを、0.5秒遅れる、あるいは数ミリずれるとする。映画になった時に数秒数センチもずれて映る。それが映画。ズレたり遅れたり絶対にごまかすな」(日刊ゲンダイ 2017年10月27日付)

 石橋は役者として妥協のない姿勢や考え方を徹底的に叩き込まれた。そんな松田の薫陶を受け、その後は国内外の映画に出演し、アメリカの4作品にも出演できた。

 実はインタビューは1回掲載と決まっていたが、とにかく内容が豊富、盛りだくさんだったので上下2回に分けることになった。興味深いエピソードをいくつか紹介すると――。

 石橋は松田に最初に会いに行った時に、まずARBありきで「俳優をやるのはそのためのプロパガンダでいいか」と恐る恐る訊いたという。撮影現場で手抜きしようものなら、松田の鉄拳が飛んでくることは誰でも知っている。松田にバンド活動のために映画に出るという言い方をしたら、タダで済むわけがないと覚悟の上だ。実際、殴られると思ったそうだ。

 ところが、松田はニヤリとして「それでいいよ」と言ってくれたという。殴るにしても、ニヤリとするにしても、その時の表情が思わず思い浮かんでしまいそうなのが、松田優作という役者の凄さだろう。

 松田にはある時から足を10センチ切ることを考えている、という噂があった。石橋は本当か訊いたという。それに対して松田は、

「本当だよ。俺、身長が高いじゃないか。だから、普通の役ができない。もう整形外科の先生に話していて、両足を10センチ切った後のリハビリの計画もしているんだ」

 と話したという。壮絶ともいえる役者魂だ。

 インタビューは「私の秘蔵写真」というテーマだった。紙面では提供してもらった撮影現場のツーショットも掲載した。写真は二人の渋いやり取りが今にも蘇りそうな雰囲気に溢れていた。

峯田淳/コラムニスト

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。