“鉄道好きの女性”に光を当てた「鉄子の旅」案内人・横見浩彦さん逝去 ファン拡大の功績と残された課題
待たれる「次のブーム」
鉄子ブームは潜在的なファンを掘り起こし、鉄道ファンの裾野を広げた。残念ながら、その後の鉄道業界はブームと呼べるような熱狂を生み出せていない。
東日本大震災から早急に復旧した三陸鉄道は、NHK連続ドラマ小説「あまちゃん」の舞台になり、多くの人たちが復興を応援しよう現地を訪れている。
神奈川県を走る相模鉄道が2019年に新横浜駅への乗り入れを果たした際にも注目を集めたが、どちらも全国的ブームとは言い難い。
昭和期にはSLブームやブルートレインブームといった全国の鉄道ファンが熱狂し、さして鉄道にない人たちも巻き込んだブームとはほど遠い。全国的な鉄道ブームは、今のところ鉄子ブームが最後なのだ。
近年、YouTubeなどの動画共有サイトでも盛んに鉄道の情報が発信され、以前よりも鉄道の情報に触れる機会は増えている。それぞれの内容は秀逸ながら、鉄道ファン全体が楽しめるような一体感には乏しい。
これは制作者の問題ではなく、鉄道趣味が成熟したことで細分化が進んだことに起因している。今後も鉄道趣味の細分化は進むことは間違いなく、ゆえにこれから鉄道分野で一体となれるブームが起きることは考えにくい。ブームが起きないと鉄道ファンの裾野は広がらない。裾野が広がらなければ、趣味としての鉄道は衰退する。それは、しだいに鉄道事業者を蝕んでいくことになる。
鉄子ブームは時流にも助けられたが、横見さんが鉄子ブームを生み出せた要因は何なのか? これは筆者なりの分析になるが、横見さんはトラベルライターでも鉄道ライターでもなかったからこそ、鉄道を自由な発想で捉えることができ、これまでのトラベルライターや鉄道ライターにはないアプローチで鉄道ファン層の拡大に取り組めたのではないかと思う。
そう考えると、鉄子ブームの火付け役だった横見さんの特異な存在感は貴重だったと言わざるを得ない。
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