“鉄道好きの女性”に光を当てた「鉄子の旅」案内人・横見浩彦さん逝去 ファン拡大の功績と残された課題

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女性ファンの存在を可視化

 横見さんはレールクイーンを発掘することで鉄道ファンの拡大を宣言し、その公約通りに豊岡真澄・木村裕子・斉藤雪乃・伊藤桃といったアイドルたちを自身のテレビ・ラジオ番組のアシスタントに抜擢した。公私混同というそしりは免れないが、それでも彼女らを鉄道アイドルとして世に送り出すことに成功している。

 横見さんに見出されて鉄道の才能を開花させた芸能人は少なくなく、女優として活躍する村井美樹さんもその一人といえる。

 世に送り出した女性芸能人たちが活躍したこともあって、“鉄子”は広く世間に認識されるようになった。それまで鉄道ファン・鉄道マニアといえば、男性ばかりの世界と思われてきた。鉄子が市民権を得たことによって、鉄道系のイベントにも女性の登壇者が増えた。

 また、それまで鉄道系イベントの参加者は男性ばかりで、たまに女性がいてもそれは男の子の連れ添いの母親ぐらいだった。そんな状況が、鉄子ブームによって大きく変わった。

 鉄道を趣味とする人たちの男女比はいまだに男性が圧倒的であることに変わりはないが、女性ファンが珍しいという見方は一昔前の価値観になっている。

 とはいえ、鉄子ブームによって鉄道ファンの女性が増えたわけではない。『鉄子の旅』以前から、鉄道業界は鉄道好きの女性が一定数いることを把握していた。

 ただ、それら女性ファンの存在を可視化して、「鉄道が好きな女性がいる」ことを一般世間に広めたことは大きな功績といえるだろう。

 筆者は、これまでの鉄道が好きという多くの女性から取材で話を聞いてきた。その大半は鉄子ブームが起きる前から鉄道に傾倒していたが、ブームが起きるまでは周囲に鉄道が好きということをひた隠しに生活してきたと話した。

 つまり、鉄子ブームは女性でも鉄道が好きだということを公言しても奇異な目で見られる機会を減らし、女性の鉄道ファンのストレスを軽減させた。そうした社会的環境が整えられたことで、女性が鉄道イベントに参加するハードルは下がり、新しいファン層を掘り起こすことにつながっていく。

変わる鉄道ファンの支援の形

 昨今、国内の鉄道を取り巻く環境はコロナ禍や人口減少といった要因によって厳しさを増している。ファン層が拡大したからと言って、すぐに鉄道需要が伸びることはない。

 鉄道を需要面で支えているのは、第一に通勤・通学などで日常的に使う人たち、次に買い物や休日の外出といった沿線住民なのだ。これら日常的に使う人たちを増やしていかなければ鉄道は生き残れない。

 鉄道ファンは一時的に経済的な恩恵をもたらしてくれるが、他方で珍しい列車が走る時や廃線になる日だけに大挙して押しかけて日常生活をかき乱す、沿線住民にとって迷惑な存在でもあった。

 しかし、鉄道ファンを取り巻く状況にも変化が起きつつある。これまでは沿線まで足を運ばなければ鉄道事業者の売上に貢献できなかったが、近年はクラウドファンディングが普及した。それにより、遠方に住む鉄道ファンでも鉄道事業者に経済的に協力できるようになったのだ。

 例えば、兵庫県加西市・小野市を走る北条鉄道は2022年からキハ40という車両を運行している。キハ40は鉄道ファンには人気の車両だが、これはクラウドファンディングで全国のファンから資金を集めてJR東日本から購入した。

 また、千葉県銚子市を走る銚子電気鉄道は、かつて経営危機をぬれ煎餅の売上で切り抜けている。ぬれ煎餅は全国から注文が殺到したことで売上を急増させた。そして2024年12月にも、南海電気鉄道から購入した中古車両を観光列車へと改造するための費用として1200万円をクラウドファンディングで調達。

 手法は異なるものの、ぬれ煎餅も観光列車への改造費用もファンが鉄道事業者を支援したという気持ちが銚子電気鉄道を経済面で支えた。

 鉄道ファン層の拡大は、こうしたクラウドファンディングで力を発揮する。一人ひとりの力は小さくても、ファンの数が多ければ危機的な鉄道事業者に手を差し伸べることができるようになったのだ。

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