いったい誰が、何のために? 2.37mの“巨大蛇行剣” 日本古代史「謎の4世紀」の解明なるか

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「呪術」と「武力」の中間

 真相は、いずれ専門家が解き明かすとして、山﨑監督が多くの考古学者らに取材を重ねた結果考えた、「もしかすると…」と考える仮説を聞いてみた。

「巨大蛇行剣は、あの大きさや形状からして、戦場で武器として使われた剣とは考えにくいとされています。そして見つかったのは円墳の入り口に当たるような場所であることを考えると、ちょうど神社の狛犬のように、“破邪”の意味を込められた、呪物のような役割があったとも考えられるといいます」(山﨑監督)

 3世紀、邪馬台国の卑弥呼は鬼道(きどう)と呼ばれる呪術で国を統治したと言われる。それが5世紀の倭の五王・武の時代には、武力で国を統治するようになっていた。

「剣でありながら、呪術的な使われ方をされていたとすると、ちょうど4世紀の巨大蛇行剣は、呪術と武力との中間の時代を象徴する出土品とも言えるのかもしれません」(同)

 また、巨大蛇行剣が作られた背景には、4世紀が「謎の世紀」と呼ばれる理由とも関連があるのではないか、と考えているという。

「その頃の日本にはまだ文字が存在せず、だからこそ史料は中国の歴史書しか存在しないわけですが、謎の4世紀とはつまるところ、中国の混乱期と合致するわけです」(同)

 4世紀から5世紀にいたる時期、中国は史上まれにみる「大分裂時代」だった。

「古代日本の統治者たちは、大国である中国を後ろ盾に、自らの権威を誇示していました。そのために必要だったのが大陸から与えられる称号であり、金印や銅鏡といった贈り物だったのでしょう。ところが、大分裂時代の中国にあっては、どの国を後ろ盾にすべきかが不明瞭だったのだと考えられます。つまり、使者を送らなかったために、歴史書に日本の記述が残らなかったのです」(同)

 虎の威を借りることができなくなった時の統治者は、自身の手で自らの権威を示す必要があったのではないか、ということだ。

「巨大蛇行剣や盾形銅鏡は、もしかするとそうした役割も担っていたのかもしれません」(同)

剣に付着した「土」はあえて取り除かれなかった部分も

 山﨑監督は、「保存科学」の現場も密着取材している。保存科学に求められるのは、発掘された歴史的史料をいかに良い状態で保存するか、という役割である。

 映画の中では、発掘された巨大蛇行剣を、周囲に付着した土ごと、分厚いウレタン素材で保護した状態で研究室に運び込み、何か月もかけて剣の元ある形に戻していく模様が映し出されている。作業を担当したのは奈良県立橿原考古学研究所の奥山誠義総括研究員だ。

「印象的だったことに、奥山さんが“今の時代には取らない方がいい”と、剣の周りに付着した土を、あえて完全には取り除かない場所があったことです」(山﨑監督)

 剣の形を綺麗に見せることだけを目的にすれば、周りについた土をギリギリまでこそぎ落とした方がいいわけだが、奥山さんは「土があるからと言って、出土品に悪影響があるわけではない場所もある。未来の技術であれば付着した土から何かを解き明かすことのできることがあるかもしれない。残しておいて将来いいデータが取れる可能性がある」「未来の技術であれば付着した土から解き明かすことのできることがあるかもしれない」という考えから、あえて土を残すこともあった。

「取り除いた土ですらも、何かのヒントになるかもしれないと、全て保存していたのには驚かされました。映画では、巨大蛇行剣のロマンについてはもちろんのこと、考古学者の村瀨さんや、保存科学者の奥山さんをはじめ、現場の研究員さんたちの対峙する、地道な作業についても、リアルな風景を伝えられればと考えました」(同)

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 日本の考古学界で“国宝級の発見”とも称される、巨大蛇行剣の発掘と、最新の保存科学を用いた研究の過程は映画「巨大蛇行剣と謎の4世紀」で詳しく知ることができる。映画は3月14日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、大阪、名古屋、京都、福岡、札幌で上映が予定されている。

デイリー新潮編集部

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