「赤いきつね」CM騒動 「性的」と騒ぐ人に東洋水産から「毅然とした一言」があってもよかったのでは

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苦肉の策で話題性を取ったホクト 振り切ったクリエイティブで増収に貢献

 日本人の「察する力」の高さを逆手に取り、下ネタの「匂わせ」に振り切ったのが2013年のホクトのCMである。「ホクトのキノコの精」に扮した要潤さんと、鈴木砂羽さん演じる主婦とのやりとりは世間の度肝を抜いた。「普通のキノコと立派なキノコ、味がいいのはどっち?」とささやき、鈴木さんの手を「こっちだろう」と下半身に誘導。思わず悩ましげな吐息を漏らす鈴木さんの手にはブナシメジが……という展開が話題に。「子どもに見せられない」などの苦情を受けてわずか1週間で放送終了するも、応援の声も多く、YouTube動画の再生回数は300万回を突破したそうだ。

 当時のホクトを取材した「日経ビジネス」の記事では、社長を交えた役員会で「少しやり過ぎではないか」と危惧する声が出ていたことも、正直に語られている。それでも放送に踏み切った背景は、営業利益の低下と人口減少時代という課題を目の前にして、リスクを取ってでも生まれ変わらねばという危機感が芽生えたからだという。

 その結果、翌年のホクトの業績は増収増益を達成。過激なCMによって、男性や若者層といった新たな購買層にもインパクトを与えたに違いない。「匂わせ」どころか本社が認めているのでかばいようはないのだが、ターゲットを絞って振り切ったクリエイティブは、多くのファンも生んだ。子どもには見せられないとクレームをつけられても、男性や若者が関心を抱いてくれたらそれで良し、という明快な戦略あっての成功といえるだろう。

クレームを恐れない「ラ王」CMも……アンミカ起用で不買運動が起きても揺るがない日清の気骨

 料理研究家のリュウジ氏は今回の件をXで、性的に感じないという立場を明確にした上で、「なんならいつ服が破れて口からビームが出るのか」と投稿していたが、「先例があります、リュウジさん!」と伝えたいのが1998年の「日清 ラ王」のCMである。椎名桔平さんがオフィスにいるのに、服を着ないで汗だくになって麺をすすっている姿は衝撃的だった。「下品」と苦情が入ったと言われているが、長野五輪の時はスキージャンプをしながら服が破れるという演出に。クレームがあっても、「ラ族」というコンセプトは譲らないという、日清の気骨を感じたものである。

 なお日清といえば2023年12月、アンミカさんを起用したウェブCMが炎上したのも記憶に新しい。メディアからの問い合わせには「さまざまなご意見を頂戴しております」「今後に活かしていきたいと考えております」と冷静に答え、放送を中止する道は選ばなかった。Xでは不買運動を呼びかける動きもあったが、実際の売り上げデータを見るとなんと微増だったよう。年越しそばのシーズンということもあり、騒いでいる一部の声に必要以上に対応しなくても大丈夫という読みもあったのだろう。

 ちなみにカップ麺のメイン購買層とXのメインユーザー層はどちらも40〜50代。一方で日清が意識しているのは若者層とされる。アンミカさんのCMが「炎上」と連日ネットニュースになっていた時も、20代以下のユーザーが多いTikTokでは概ね好意的だったようだ。「明るくていいCMなのに」「なんで炎上してるか分からない」といったコメントも見受けられた。

「赤いきつね」のアニメCMでも若い女性が描かれており、新規購買層として若者世代を意識していると推測される。でもXでは何万といいねがつく「赤いきつね」トピックも、TikTokでは無風状態だ。逆に盛り上がっているのは「どん兵衛」を使った「健康キャンセル界隈」なるハイカロリーレシピ。同じ日清の不動のベストセラー商品「カップヌードル」も、TikTok発の「雪見だいふく」を加えたアレンジレシピが注目されたこともある。購買意欲を左右するのはCM表現より、食べたいアレンジやシズル感があるかどうか。若者たちのそんな現実的な視線が垣間見えた。

 多くを語らず、視聴者の想像力を信じる。それはCM制作の方針としては機能するが、販売戦略やリスク対策においては、余計な疑念や臆測を生み、不利益を招いてしまうこともあるのだろう。「赤いきつね」では、アニメ制作者が誹謗中傷を受けていることが報じられ、所属制作会社が声明を発表したが、クライアントである東洋水産からも毅然とした一言があってもよかった。性的かそうでないか白黒つけるのではなく、赤か緑かと楽しく話題にしてほしかっただけのはずだろうに、もったいない気がしてならない。

冨士海ネコ(ライター)

デイリー新潮編集部

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