「習近平」側近が続々「汚職失脚」の衝撃 人民解放軍が目指す「台湾侵攻」にも影響か
子飼いの幹部が相次いで…
さらに深刻なのは、苗氏は習氏が福建省で勤務していた1985年以来、同じく福建省の師団軍に所属し、20年近く個人的にも関係を深めていたことだ。苗氏は習氏の信頼が深かったことで、習氏との個人的な信頼関係を利用して、昇進して、私腹をこやしてきたとみられている。
習氏は福建省から浙江省、上海市のトップを経て、2007年10月に党最高幹部である党政治局常務委員に昇格し、12年には党総書記に就任。それと時期を同じくして、苗氏は14年6月に中国7大軍区のひとつ、蘭州軍区のトップに昇格した後、まったく畑違いの海軍トップの海軍政治委員に昇格するという異例の大出世を遂げた。さらに、2017年からこれまで2期続けて中央軍事委員会委員として、習氏の軍務を補佐する軍最高幹部を務めてきたが、これも習氏との強いコネクションがあったればこそ、とみられている。このため、習氏の子飼いともいえる苗氏が腐敗問題で失脚したことで、軍内では習氏への不信感も強まりかねない。
反腐敗闘争は失敗
このような「習近平閥」ともいえる幹部の失脚は苗氏ばかりではない。中国最高人民検察院(最高検)は今月15日、唐一軍・前司法相を収賄罪で起訴したと発表した。中国メディアによると唐氏は、習氏が浙江省トップだった時期に同省規律検査委員会の幹部を務めており、その後、地方幹部を経て、2020年4月に司法相に抜擢されている。
習氏が党と軍を含む中国の最高指導者となって、今年ですでに13年目。2012年10月の党総書記就任後の初めての演説で、習氏は「トラもハエも叩く」と強調して、「反腐敗闘争」の開始を宣言。その後、これまで12年以上も反腐敗闘争は続いているが、いつ終わるのか、後が見えない状況だ。これだけ長く続けても、幹部の腐敗は絶えることがない。習氏はこの間、地方幹部時代からの子飼いの部下を抜擢しつつ、その数年後には抜擢した人物が反腐敗闘争で失脚する例も出ており、幹部だけが良い目を見て、報われない民衆の間からは「反腐敗闘争は失敗」との声も出かねない。
権力基盤崩壊のきっかけに
さらに、軍内で腐敗が蔓延するなか、米ブルームバーグ通信は「(人民解放軍の)ロケット軍の運用に関連し、燃料の代わりに水がミサイルに注入されていたり、ミサイルのサイロ(格納庫)のふたが機能せず迅速に発射できない不備があったりした」との米情報当局の分析を伝えている。
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官(当時)は23年2月、ワシントンでの講演で、米側のインテリジェンス(機密情報)として、習氏が「2027年までに台湾侵攻を成功させる準備を整えるよう、人民解放軍に指示を出した」と語ったが、米国の軍事専門家の間では、習近平指導部がロケット軍などの軍高官を処分し、引き締めを強めている背景には、軍内部で広がる汚職が「戦争遂行能力」を損ねているとの危機感があるとの見方が浮上している。
このまま軍を中心とした習近平指導部内で腐敗が続けば、習氏が「数年内に大規模な軍事作戦を検討する可能性が以前より低くなった」との見方も出ている。無理に実行しても、軍の基盤が整っていないなか、米軍などの反撃により、軍事作戦が失敗するのは目に見えているからだ。軍内の腐敗蔓延は結果的に、習氏の権力基盤が崩れるきっかけになりかねない。
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