金融正常化までは「14年かかる」…日銀「植田総裁」が直面する“異次元緩和のツケ”とは

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正常化まで14年かかる

 では日銀が正常化できるまでにどれほどの年数がかかるでしょうか。日銀は去年の7月に先行き2年間の国債減額計画を発表しています。徐々に減らしていくとしており、2026年の1月から3月には買い入れ額を月6兆円から3兆円に減らすとしています。償還との差し引きでも月額3兆円の圧縮になるので、年間では36兆円の減額になりますが、減らすべき国債は470兆円。異次元緩和の解除時点から計算すると14年かかる計算になります。

 異次元緩和を継続した期間よりも長くかかるわけで、正直言って、途方もない年数です。考えてみるだけで恐ろしい。しかも、その間に政治的リスクや経済的リスクが起こり、また緩和の状態に戻ってしまう可能性もありますし、国債の買い入れを減らした時に一体誰がその分を買ってくれるのか、という問題も残ります。

 日本の国と地方の債務残高の対GDP比率は、昨年10月時点で約250%です。これは世界189カ国・地域中、第2位の悪さです。第1位が約252%でスーダンです。3位はレバノンで約190%。スーダンはあれだけ内戦が続いてきた国であり、レバノンも中東の紛争地域です。そういった政治的リスクに巻き込まれている国は、どうしても財政状況が悪くなりがちですが、日本は平時でありながら250%となってしまっているのです。

 今後、台湾有事、あるいは政治的リスクとは少し違いますが、大地震が起きた場合など、新たに政府の予算を積み上げなければいけない局面がやってくる可能性があります。その時に国債の買い手がおらず、「国債を日銀に買ってもらおう」となれば、今度は円の暴落が起きかねません。誰もこの国を信用しなくなる可能性があるのです。

 大事なのは、正常化を完了させるという日銀のコミットメントを設定することです。日銀は今のところ、2年後にはこのくらい国債買い入れを減額しますという「経過の目標」を出しているだけで、長期的な目標は示していません。

正常化の過程でのリスクは

 去年7月に政策金利を引き上げ、株が大暴落したということがありましたが、ああいうことは今後も起きる可能性があります。

 異次元緩和が続いた間、日本経済はあまりにぬるま湯につかっていたので、急に冷水をかけられると、びっくりして飛びあがってしまう。こういうことがいろいろなな場面で起きてきます。それをいかに抑え、なだらかに進めていくか。植田日銀は本当に大変な舵取りを担うことになります。

 さらにアメリカ経済、特にアメリカの金融政策運営がここのところ順調に来ていないことも懸念されます。金利はまだまだ高いにも関わらず、物価がなかなか下がってこない。物価と賃金の悪循環に陥っている印象があります。そこにトランプ大統領が出てきて関税を引き上げるという話をしている。現状、楽観的な見方が多いですが、私はアメリカ経済の先行きには不透明感があると感じています。いわゆるスタグフレーション、つまり物価が上がっているにもかかわらず景気が停滞するという可能性ももちろんリスクとしては頭に置いておく必要があります。

 そうなった時に日本は利上げのペースを緩めていく、あるいは場合によっては利下げをするということもあるかもしれません。そういう対応はせざるを得ない。

 正常化へのコミットメントを設定しながら、ある程度政策については柔軟な対応を考えていかざるを得ないと思います。

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