金融正常化までは「14年かかる」…日銀「植田総裁」が直面する“異次元緩和のツケ”とは

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 かつてこれほどまでに日本銀行の金融政策が注目されたことがあっただろうか。1月には日銀が政策金利を0.5%程度にまで引き上げたことが大きく報道された。しかし、黒田東彦前総裁下で行われた異次元緩和から脱却し、金融政策を正常化していく道程は険しい。今後の見通しについて、元日銀幹部で『異次元緩和の罪と罰』(講談社現代新書)の著者である山本謙三氏に聞いた。

日本が安売りされている

 日本銀行は黒田東彦総裁の下で、長く異次元緩和を続けてきました。その結果、様々なところで歪みが生じています。

 その一つが物価です。どの指標を見ても物価は上がっていて、総じていえば、3%近い上昇が3年近く続いています。この物価の上昇を日銀は放置できなくなってきているのが現状です。例えば、生鮮食品を除く消費者物価の上昇率と政策金利を比べるとあまりにその乖離が激しい。結果、円安が起きています。

 異次元緩和の副作用として、円安が挙げられます。為替相場の議論をする時は物価変動分を考慮した実質実効為替レートを見ますが、この実質実効為替レートで見ると、1ドル360円だったニクソンショックの時(1971年)よりも円安なのです。これは極端に安い。それゆえに、これだけインバウンドが増え、海外から日本の土地が買われているのです。

 大量の観光客が来る、多くの土地が買われるということは、日本が安売りされているということです。海外からは、日本に行けば何でも安く見えてしまう。さらに、日本の人材も海外に流出する一方、国内では低金利により企業の倒産が非常に少なくなっている、といった問題が起きています。異次元緩和は日本経済の足腰を弱め、新陳代謝の進まない社会を作ってしまったのです。

 日銀はこれらの状況を修正するため、手を打っていかなければいけません。

 基本的に日銀は徐々に金利を上げて金融政策を修正していくでしょう。ただし、悩ましいのは正常化していく段階で反動が大きくなることです。金利の大幅な上昇や、もしかしたら円高が急激に起きることもあるかもしれません。そうした急激な動きを日銀は避けたいでしょうから、状況を見極めながら政策運営をしていくという難しさを常に抱えていくことになります。

どこまでいけば正常化なのか

 正常化について言えば、大きく二つの論点があります。一つは日銀の国債保有残高の減額です。異次元緩和の開始前、約120兆円だった残高が、解除時点の昨年3月には約590兆円になっています。理屈だけを言えば、差額分の470兆円を減らし「平時」に戻すのが正常化だと言えます。

 なぜ国債の保有残高を減らすことが大事なのか、中央銀行は財政ファイナンスが禁止されているからです。中央銀行が財政ファイナンス、つまり国債の引き受けのようなことをやれば、政府は際限なく国債を発行できることになり、いくらでも財政赤字を増やせるようになってしまいます。

 現状、日銀は大量の国債を市場を通して購入しているので、厳密な意味での財政ファイナンスではないものの、実質的には財政ファイナンスと言えるものでした。このまま放置すれば、日本や日本円という通貨に対する信頼が揺らぐかもしれない。そのため、なるべく早くそれを修正する必要があります。

 正常化に関するもう一つの論点は、歪んだ市場の機能を元に戻していくことです。長期間、短期金利はマイナス、長期金利も0%近傍に抑えられてきたことで、ありとあらゆるところで歪みが生じています。住宅ローンが安い金利で大量に借りられている、企業が低金利で資金を調達できるので、企業倒産が減っている、のはその一例です。それゆえ、金利を上げて、市場の機能を正常化する必要があります。

 実はここに挙げた二つの論点、国債を平時の水準に戻すことと、市場機能を正常化することは最終的には同義です。

 つまり、中央銀行のマーケットへの介入を減らしていくということです。よく考えてみれば当然で、市場経済の国なのに、中央銀行が国債を買い、ETFを買い、資金を大量に市場に供給するというのは異常な状況でした。そこから徐々に身を引いていくことで、初めて市場経済が活性化していくのです。

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